なぜ日本にはプロのマーケティング組織がほとんどないのか?

 日本企業において、マーケターの地位は低い。

 25年以上マーケターとして日本と米国で働いてきて私が最も残念に思っている事実です。多くの日本企業は、マーケティングを重視してきませんでした。あまり多く語られることはありませんが、実はこのマーケティング力の弱さが、バブル崩壊以降日本企業がグローバルで競争力を失った要因だと私は考えています。

マーケティングが不要だった日本企業

 日本でマーケティングが重視されてこなかった理由は、日本企業が得意としてきたビジネスモデルに理由があります。新しい商品・サービスを企業が市場に投入する際の考え方には、大きく分けて2つの考え方があります。一つが「プロダクトアウト」、もうひとつが「マーケットイン」です。プロダクトアウトとは、企業が良いと思う商品を開発し、それを市場に投入する手法です。何を作るかは、企業発のアイディアや、技術をベースに決定します。一方、マーケットインとは、市場調査等を基に、消費者等の顧客が求めるものを把握し、その内容に沿った商品を開発します。現実には両者は混在します。しかし、多くの企業にはどちらかの傾向が強く表れます。

 日本企業が、世界第2の経済大国になるまでに成長できた主要因は、プロダクトアウト型のビジネスモデルで高い競争力も持っていたからです。品質の良いものを、安く、大量に作って、グローバルで大量に売る。自動車にしても、家電にしても、日本が強い競争力を持っていた産業は、ほぼプロダクトアウト型のビジネスモデルでした。

 そのこと自体は、全く悪いことではありません。ただ、マーケティングという文脈で考えると、話は違ってきます。マーケットイン型のビジネスモデルにおいて、新商品開発を主導するのはマーケティングです。なぜなら、新商品のアイディアの起点が「市場調査」だからです。トイレタリー産業のブランドマネージャーが代表例ですが、マーケットイン型のビジネスにおいては、マーケターの市場調査を基に企業は、どのような商品を作るかを決定します。事業がマーケティング・ドリブンで推進されていくのです。

プロダクトアウトの成功体験

 一方、プロダクトアウト型で商品開発を主導するのは、技術部門や商品開発部門です。開発した技術が新たにどのように商品を改善できるか。省エネ化、小型化、低価格化などを、新しい技術で実現する。そのような動機で新商品がつくられます。このプロセスにおけるマーケティングの役割は、商品発売直前から始まる広告宣伝です。新商品開発プロセスの、最後の出口まで登場する場面がほぼありません。

 プロダクトアウト型が強い日本では、マーケティングは、広告宣伝を担う部門だとみなされてきました。マーケティング部門を日本語で「宣伝部門」と訳すのがその象徴です。マーケティングは、「最後に宣伝する部門」として扱われてきました。。商品が売れるかどうかの成否のほとんどは、宣伝活動以前の商品開発プロセスに依存しています。そこにほとんど関わらない宣伝部門は、会社の業績に大きく寄与する部門とみなされてこなかったのです。このように考えれば、日本においてマーケティングの地位が低いことは必然と言えます。

なぜマーケットインに転換できなかったのか?

 しかし、問題は日本経済がプロダクトアウト型で成功しすぎてしまったことで、高品質・低価格という強みを失ったことです。賃金の上昇と円高が進む中で、中国に高品質・低価格の地位を奪われてしまいました。この状況に直面したとき、日本企業はマーケットイン型のビジネスモデルに転換しなければなりませんでした。市場ニーズを正確に把握し、より付加価値の高いものを高単価で販売するモデルに転換しなければなりませんでした。しかし、現状をみると、自動車産業を除き、多くの試みは失敗したと言わざるを得ません。

 私は、その理由は2つあると考えています。ひとつめは、そもそも日本企業にマーケティングが出来る能力がなかったことです。それはプロダクトアウト型ビジネスモデルの説明で理由はご理解いただけると思います。ふたつめの理由は、マーケットインへの転換を迫られたタイミングで、マーケティングのデジタル化が起こったことです。

 マーケティングのデジタル化で起こったことは、マーケティングの圧倒的な複雑化・高度化です。日々進化する技術をキャッチアップしながら、PDCAを回し続ける。このプロセスを通じて深く市場を理解し、よりよいプロダクトに磨き上げていく。この絶え間ないDCAをマーケティング主導で回さなければなりません。しかし、日本企業においては、そのようなことができるプロのマーケターもいなければ、マーケティング主導で商品開発を主導するようなプロセスも、権限もない。一方、もともとマーケットイン型で事業を推進していた欧米企業は、プロのマーケターが、いち早くマーケティングのデジタル化に対応し、さらにマーケットイン能力を高める。この2つの理由が不幸にも組み合わさったことにより、日本企業はグローバルでの競争力を失ってしまったのです。

本当に顧客理解が出来ているのか?

 SNSやYouTube、Netflixなどの動画メディアが若年層の余暇時間の中心的存在に置き換わりました。その環境で、マーケティングは、有名タレントを使ったTVCMを大量投下すれば、認知度が上がり、商品が売れるという幸せな時代ではなくなりました。マーケターは、絶え間ないPDCAに基づき、多様化する消費者と、きめ細かにコミュニケーションしなければなりません。残念ながら、プロフェッショナルなトレーニングを受けていない人材が、広告代理店に丸投げして何とかなるような業務ではありません。そもそも、企業の趨勢を決定するような、ビジネスプロセスのナレッジを、自社に蓄積せずに、外部にアウトソースして、競争優位性を築くことができるハズなどあり得ません。

 日本企業に必要なのは、プロフェッショナルなスキルを持つマーケターで構成された、プロのマーケティング組織です。彼らの戦略的、継続的な活動を通じた深い顧客理解こそが、事業を成長させる源泉です。顧客と向き合い続ける“組織”を持たない企業は、マーケットイン型ビジネスで、継続的な成功を得ることはできないのです。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
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