なぜ日本企業はマーケターを育成しないのか?

良いマーケターが採用できない・・・

 多くの経営者から相談される悩みの一つです。マーケティングに課題を抱える多くの企業が、戦略、PDCA以前に、それを行う優秀なマーケターを確保することが出来ずに苦しんでいます。理由は簡単です。日本の優秀なマーケターの人材プールがあまりに小さいからです。これは当然の話で、以前説明した通り、日本企業が歴史的にマーケティングを重視してこなかったため、プロフェッショナルなマーケターの人材プールが形成されてこなかったのです。

 しかし、強いマーケティング組織を作ろうと思えば、優秀なマーケターの確保は不可欠です。AIがどれほど発展しようとも、マーケティングとは人が人とコミュニケーションをとり、自社の商品、サービスの良さを説得する行為だからです。私は、長い事業会社のCMOの経験から、日本で採用のみで十分な人材を揃えることは困難だと考えています。市場にいない人材はいくら探しても見つからないからです。そこで、重要なのがマーケターの育成です。

マーケター=センスという誤解

 但し、マーケターの育成について多くの企業は積極的ではありません。理由は、マーケティングには「センス」が必要だという誤解があるからです。多くの日本企業はマーケティングを重視してこなかったため、人材育成をそもそもしてきませんでした。このため、育成されずに活躍できているマーケターが成果を上げてきました。彼らは教えられなくてもできる人です。よくマーケティングが得意な人を「マーケティングセンスがある」と表現するのがその象徴です。

 センスというのは、育成するものではありません。その人が持って生まれた資質です。この理解によって、マーケターは育てるものではなく、見つけるものだという認識が広がってしまったのだと思います。

 しかし、マーケターは育成可能です。なぜなら、マーケティングとはセンスではなく、スキルで行うものだからです。スキルとは、適した人材を正しく選び、適切なトレーニングを行えば、高確度で育成可能です。私の年代の優秀なマーケターの多くは、外資系のトイレタリーメーカー出身者が多いですが、彼らはマーケターが育成可能であることを証明しています。外資系トイレタリーメーカーは、マーケティングメソッドを体系化し、継続的にマーケターを育成できているからです。

デジタルマーケティングはセンス依存では成功しない

 さらに、マーケティングのデジタル化は、マーケターに必要な資質を大きく変化させています。伝統的マーケティングの世界では、優れたセンスを持つ人材であれば、体系的なトレーニングを受けていなくても一定の成果を出せる余地がありました。ビジネスの嗅覚が優れた人材(成功した起業家などに多い)は、その代表例です。伝統的マーケティングの世界は、P(戦略)をいかに精度高く行うかを追求しています。これを、継続的に、確度高く、普通の人ができるようにするために考えられたのが、伝統的マーケティング理論です。ただ、センスがある人というのは、理論など知らなくても、同じ答え、もしくは、理論的な分析からは導き出せないようなアイディアを思いついてしまったりします。

 一方、伝統的マーケティング理論は、DCA=実行については、ほとんど言及していません。この部分のスキルは体系化されていないため、上手くできるかどうかはトレーニングを受けているかとあまり関係ありません。つまり、Pがセンスで出来てしまえば、プロフェッショナルなトレーニングを受けているかは関係ないのです。

 しかし、デジタルマーケティングで重要なのはDCAです。高度化・複雑化したデジタルマーケティング技術を使いこなしながら、継続して改善を積み上げていかなければなりません。当然、センスだけで、トレーニングを受けた人材と同水準の業務クオリティを出すことはできません。

そもそも、センスのみに依存した人材は、DCA型のデジタルマーケティングには適していないと私は考えています。理由は、センスに依存した考え方をする人材は、閃き、発見を重視する人が多く、ロジックが後回しにされる傾向が強いからです。閃きや発見による斬新なアイディア自体は、全く否定されるもではありません。そこから、大ヒット商品や、大成功した事業が造られた例は多くあります。しかし、デジタルマーケティングで重要なのは、大ヒットを生むための閃きではありません。今日より明日、今週より来週と、目の前の課題を一つずつ解決して、継続的、連続的に改善活動を行うことです。DCAを通じて顧客と対話を行い、そこで得たデータから学び続けることです。

 

マーケター育成が競争力あるマーケ組織の基盤

 私は20年以上に渡り、多くの若いマーケターと仕事をしてきました。結論として、デジタルマーケティングのマーケターは育成できると確信しています。ともに仕事をした多くの若いマーケターが長くマーケターとして活躍してくれています。重要なのは、伝統的マーケティングの世界で外資系トイレタリーメーカーが行ったように、デジタルマーケティングを体系化し、トレーニング手法を開発することです。

 彼らが、優秀なマーケターを輩出し続けられている理由は、単に優秀な人材を採用し続けたからではありません。育成できる仕組みを構築し、それを長期的に回し続けてきたからです。

 マーケティングの力で競争優位性を築く企業を作ろうと思えば、継続的な人材育成は必ず備えなければならない基盤です。マーケターを育成できる企業は、多くありません。優秀なマーケターを育成できない日本の企業環境で、人材市場に優秀なマーケターのプールがあるはずもありません。

 優秀なマーケターが採用できないと悩む経営者は、自社の採用力の低さを嘆き、改善することに望みを託すべきではありません。自社にマーケター育成の仕組みを構築する。そこに、競合他社が決して真似できないマーケティングによる競争優位の未来があります。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
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