そのPDCAで、競争優位は作れるのか?

ほとんどの企業がPDCAを回しています。


しかし、それで競争優位を築けている企業は、ほとんどありません。PDCAで競争優位を作れる企業とそうでない企業の差はどこにあるのでしょうか?

PDCAをするだけでは差は生まれない

 PDCAを競争優位の源泉にまで高めるためには、精度と回転速度を極限まで高めることが必要です。ただ、ここで問題になるのは、PDCAの精度と回転速度を高める方法が明示されていないことです。このため、ほとんどの企業が、PDCAを、自己流で行っています。目の前の課題を上手くいくように仮説を立て、その仮説を実行する。結果を検証して、改善策を考える。しかし、その程度であれば、誰でもやっています。つまり、PDCAを実施すること自体が、競争優位を築くための要因ではありません

 多くのビジネスパーソンの間違いは、PDCAの精度を高めるために、仮説=戦略で差をつけようとすることです。特に、マーケティングは、その側面が強い分野です。その理由は、マーケティングの教育の影響が大きいと考えています。

戦略にフォーカスする伝統的マーケティング理論

 マーケティングを体系的に学ぼうとする人の多くが手に取るのが、フィリップ・コトラーのマーケティング・マネジメントという教科書です。おそらく、世界中のほとんどのMBAのマーケティングの授業で、教科書として使われています。それほど、コトラーのまとめたマーケティング理論の体系は影響力のあるものです。ここからは、このコトラーのマーケティング理論を「伝統的マーケティング」と呼ぶことにします。

 伝統的マーケティングが、これほど影響力を持っているのは、それが有用だったからです。現実のビジネスの現場でマーケティングをする際のガイドとして、素晴らしく便利なフレームワークでした。

 では、伝統的マーケティングはその理論体系の中で何を議論しているのか。それは、いかに優れた「戦略」を構築するかです。代表的なのは、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)や4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)などです。いずれも伝統的マーケティングの中核的なアイディアですが、それ以外のアイディアもほとんどはマーケティング戦略を精度高く構築するかを議論しています。

 では、伝統的マーケティングの理論は、デジタル化されたマーケティングの世界で有用と言えるのか。その答えは、「役立つ」時もあるという感じです。私は、これからデジタルマーケティングを学び始める人に、コトラーの書籍をお勧めしません。なぜなら、実態と大きくかけ離れているからです。その理由は、ビジネスやマーケティングのデジタル化により、マーケティングを行う環境が劇的に変化したことが背景にあります。

 そもそも、伝統的マーケティングの理論が想定していた主な産業は、トイレタリー商品をはじめとした消費者向けの消費財です。消費財ビジネスで、ヒット商品を作る際に重要なのは、新商品発売時にどれだけ小売店の棚スペースを確保するかです。どんなに素晴らしい商品でも消費者の目に触れる機会がなければ売れないからです。しかし、小売店のバイヤーの立場から見れば、売上実績がある商品を下げ、新商品に棚を割り振ることはリスクです。そんな時、出てくる話が、この商品はどのくらい広告宣伝するのかという話です。自信があるのなら、メーカーもリスクを取って大規模な販売促進支援をしろというロジックです。

 ただ、これはメーカーのマーケティング担当からすると困った話です。新商品には当然実績がありません。つまり、新発売時の1発目のマーケティングというのは、PDCAの1回転目のDにリスクを取って大規模な投資をすることです。

 では、一回目のDの成功確度を上げるためには何をすべきかといえば、それはPの精度を上げることです。これが、伝統的マーケティングがP=戦略構築にフォーカスを絞ってきた理由です。

なぜ、伝統的マーケティングはデジタルで使えないのか?

 しかし、ビジネスのデジタル化は、環境を大きく変化させました。小売店型の商品販売とECを比べると分かりやすいでしょう。ECには、物理的な棚スペースという概念はありません。スペースは理論上無限大です。このため、新商品発売時に、無理に大規模なマーケティング投資をする必要はありません。デジタルビジネスの成功法則は、「小さく産んで、大きく育てる」です。それは、GAFAMと呼ばれるアメリカの巨大IT企業が全てスタートアップから始まったことが証明しています。初期の商品・サービスのアイディアを形にして、まず市場に出してみる。実際の市場での消費者の反応をみて、どんどん改善活動を行い、市場に求められる商品・サービスに磨き上げていく。これが、デジタル時代のビジネスの成功要因です。デジタルビジネスにおいて、P(戦略)とは、最初のアイディアで十分なのです。重要なのは、市場向けにD(実行)を行い、反応をC(検証)し、A(改善)する。つまり、成功のカギはPではなく、DCAにあります。実際には、PよりもDCAに費やされる時間の方が圧倒的に長い。それがデジタルビジネスです。

 そう考えると、デジタルビジネス、デジタルマーケティングにおいて、伝統的マーケティングが有用でない理由は明白です。ほとんどの人はPではなく、DCAをしているのに、Pの正しいやり方を教えられても、適用する場面がほとんどないのです。私が「役立つときもある」と表現したのは、Pのフェーズにおいては有用だが、それ以外には使えないからです。

競争優位はDCAの差で決まる

 では、デジタルマーケティングの研究や書籍や記事が、DCAのやり方を教えてくれるのかと言えば、全くそうではありません。デジタル広告、インフルエンサーマーケティング、SNS活用などなど、流行りの手法のノウハウを説明するものばかりです。分野別のDの解説に留まっています。

 DCAの成功のカギは「精度の向上」と「回転速度の高速化」を極限まで高めることです。その実現には、戦略、オペレーション、データ基盤、組織、人材など、企業全体での組織力の向上が不可欠です。DCAの繰り返しの中で、顧客の声を聞き、改善し、またフィードバックを検証する。この回数を競合よりもどれだけ多くできるかが、競争優位の源泉なのです。

 PDCAとは、単なる掛け声ではありません。PDCAはすればよいのでもありません。重要なのは「精度」と「回転速度」です。競合が月1回のPDCAであれば、週1回まわせる組織は4倍の速度で改善できます。それこそが、良い商品、良いサービスを作る最も確実な方法です。PDCAの「精度」と「回転速度」を低下させる要因は徹底的に排除しなければなりません。それがDCA型組織です。

 組織の力を最大限引き出し、実行力を極限まで上げる。そんな「本物」のPDCAを実現する。あなたの組織で行われているPDCAは胸を張ってそのレベルに到達していると言えるでしょうか?

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
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