デジタルマーケターにとって、AIは今に始まった話ではありません。
2022年11月のChat GPTの登場以降、AIが急速に人々の生活に浸透しています。ビジネスにおいても、それをいかに活用するかが重要なトピックスになっています。
ただ、デジタルマーケティングを長年している身からすると、AIと仕事をすることは、新しい経験では全くありません。程度の差はあれ、デジタルマーケティングとAIの付き合いは既に20年以上の歴史があるからです。このため、AIを仕事でいかに活用するかを考えるヒントは、デジタルマーケティングの成功法則がそのまま活用できると言えます。AIを使って、いかに改善を続けるか、競合と差をつけるかを、デジタルマーケターは20年以上考え続けてきたからです。
AIによる効率化とコモディティ化
AIがビジネスに浸透することで起こる問題で、最初に思いつくことは、「効率化」と「コモディティ化」です。まず、分かりやすいのは効率化です。この点は生成AIをユーザーとして使ったことがある人であれば直観的に理解できると思います。これまで何時間もかけて行ってきたことが、数十秒で終わってしまいます。私が一番それを感じるのが、言語の翻訳です。
効率化は短期的には、仕事が楽になり、メリットと捉えられます。ただ、中長期的に見れば、同じことを行うために必要なリソースが大幅に削減できることを意味します。経営者の立場から言えば、コストが削減出来てメリットになりますが、労働者にとっては、仕事がなくなるという意味でデメリットです。ただ、AIが出来てしまった以上、効率化のメリットを経営者が享受することは避けられません。
労働者としての防衛策としては、その職種におけるハイスペック人材になるしかありません。例えば、マーケティング業務の7割がAI化されるのであれば、マーケターとして働き続けるには上位30%の人材に自分を鍛えるしかありません。(ちなみに、本書の内容を本気で5年程度実践すれば、マーケティングでいえば上位5%位になれるはずです)。
一方で、イメージしにくいのは「コモディティ化」です。なぜAIを使うとコモディティ化が起こるのかと言えば、AIとは本質的にデータドリブンだからです。データドリブンが意味するのは、AIに似た質問をすれは、似たような答えが返ってくるということです。つまり、戦略や施策についての同じ質問をAIにしたら、誰がやっても同じ答えが返ってくるのです。戦略とは、他者と違うことを行い、差別化することです。一方、同じ産業に属する企業が抱える課題というのは、大抵似たり寄ったりです。似たり寄ったりの課題解決をAIに聞けば、ほぼ同じような解決策を論理的に回答してくれるはずです。つまり、AIを「普通に」使うと、各社の戦略や施策は似たものになってしまうのです。
AI活用で差を生むもの
では、AIから他社と異なる戦略的な回答を得るためにはどうすればよいのか?答えは2つです。「同じ質問をしないこと」と「問題を解くためのデータに差をつけること」の2つです。「同じ質問をしないこと」とは、誰でも思いつくような質問ではなく、より具体的で、誰も考えつかないような深い課題まで突き詰めて考えて質問をすることです。「データに差をつける」とは、質問を解くためのデータ(条件)をユニークにすることです。同じ質問でも、それを解くための条件を変化させれば得られる答えは変わるからです。
なぜDCAがAI差別化の源泉なのか?
次の課題は、ユニークな質問とユニークなデータをいかにして手にするかです。実は、その答えは既に提示しています。PDCAの精度と回転速度を競合よりも向上させることです。正しいPDCAは、DCAを高速で回転させます。DCAの回転で行われることは、Aにおいて特定の条件における「課題=質問」を考える。Dでそれを実行する。Cで「検証データ」を得ることです。つまり、DCAの精度と回転速度が高いことは、そのまま、生み出されるユニークな質問とデータが競合よりも多く得られるということです。優れたデジタルマーケティングのマーケターは、メディアに組み込まれたAIにいかにすぐれた機械学習を行わせるかを考え続けています。どのようなデータを蓄積し、どのような問いを立て、どう実行するか。その結果として、独自の条件設定における検証データを獲得するか。その連続の中で、競合よりも優れたパフォーマンスを得る。PDCAこそ、AIを使って、独自の戦略や施策を考え、実行できるようになるためのカギなのです。
本書の目的は、優れたマーケティング組織を構築することです。ただ、本書で扱う多くの考え方は、「マーケティング」を他の職種に置き換えても成立します。そして、そのアイディアは、AI時代にマネジメントが実践すべき課題とその解決策になるはずです。なぜなら、ここで取り上げる手法は、私が25年にわたってデジタルマーケティングを通じてAIと格闘し続けてきた成功ロジックの結晶だからです。

