売上を追う営業組織ほど売上が伸びない理由

数字にこだわり、売上増を最優先しているのに業績が低迷する。

 売上目標が達成できずに苦しむシチュエーションは誰しも経験したことがあるはずです。経営会議などで、営業現場からよく聞く説明が、「現場の徹底力不足」とか、「数字への執着が足りない」などの発言です。そして、その解決先が「最後まで諦めずにやり抜く」というものです。

 一方、私はこのような議論に否定的です。なぜなら、議論が客観的な事実やデータ分析に基づいたデータドリブンではないからです。もちろん、営業組織が売上を重視して、組織を引き締めてマネジメントすることが悪いとは思いません。しかし、長期的に売上未達を繰り返す営業組織の問題は、精神論ではなく、構造的な課題にあることがほとんどです。

データがあるのは当然ではない

 私は、営業組織が、客観的な構造的課題に向き合いにくい理由は、データの未整備にあることが多いと考えています。特に、オフライン要素の強い営業組織などで、データ分析し始めると浮上する問題が分析するデータがないことです。より、正確に言うと、分析に足るデータがないことです。課題分析するための十分なデータがなく、本質的な課題が理解できないため、正しい改善策も検討できないという負のサイクルに陥っています。

 この状況になる理由は、売上最大化を最優先にするという営業組織として当然と思える常識が、データ整備を結果的に軽視することに繋がってしまうジレンマに陥るからです。なぜ、売上最大化がデータ整備を邪魔するのか。その理由を見ていきましょう。

データ整備には手間がかかる

どんな企業でもデータが全くないことはあり得ません。少なくても会計帳簿はどんな小さな企業にも存在します。ただ、企業のパフォーマンス分析のためのデータには、「正確」で「網羅的」あることが求められます。

 使えるデータの条件である「正確性」と「網羅性」を担保するためには、組織はデータを収集・整備する必要があります。特に、バリューチェーン内にオフラインのプロセスが存在する場合、活動データは自動的にサーバーに蓄積されることはありません。人が何らかの方法でデータを収集し、入力し、整理する必要があります。

 オフラインビジネスで、使えるデータが整わない理由は、このプロセスに手間がかかるからです。

 まず、収集・入力から考えてみましょう。2010年代前半にゲーム産業で働き始めたころ、家庭用ゲーム機のソフトはまだ、リテールでパッケージ販売が主流でした。ゲームソフトは売れ残りが返品されるため、正確な業績を把握するためには、流通業者向けの売上高だけでなく、流通在庫も把握しないと業績評価ができません。ただ。メーカーは、リテールの販売システムにアクセスできるわけではないため、流通在庫の把握には、ヒアリングによる情報収集が必要です。ただ、流通業者の立場では、そのヒアリングに協力する義務もメリットもありません。営業部門は、流通業者と良いリレーションを作り、データ収集の協力を仰きます。このプロセスを網羅的に行い、正確な売上・利益の予測をするだけでも、膨大な手間がかかります。

 もし、流通業者から、苦労してデータを収集したとしても、次のステップとして、社内でのデータ整備の手間がかかります。流通業者毎にバラバラなフォーマットで提供されたデータを、社内共通のフォーマットに変換し、集約する必要があります。

 このように、オフライン要素がバリューチェーンに存在する場合、分析用のデータを準備するのは非常に多くの手間がかかります。

営業でデータが軽視される本当の理由

 この手間を理解できると、売上最大化に注力する組織が、客観的な分析を軽視し、精神論に走りがちな理由が見えてきます。

 パッケージゲームソフトの例でもわかるように、オフラインビジネスで社外からデータを収集し、入力する役割は営業部門が担います。営業部門は、社外とのコミュニケーションハブであるため、多くの企業で同様な状況です。ここで問題になるのが、データ整備にかかる手間にどの程度リソースを割くのかです。具体的には、営業組織のメインミッションである売上と、データ整備の手間の順位付けです。短期売上の達成を重視するほとんどの営業組織において、優先順位は売上>データとなります。その結果起こるのが、

売上優先→データ未整備→原因分析不足→精神論依存

というサイクルです。恒常的に目標未達が続き、売上優先度が高くなると、それに反比例してデータ整備状況は悪化します。すると、客観的な分析がますますできなくなるという負のスパイラルが発生します。

売上=データへの価値転換

 私は、3つの事業会社を経験しましたが、そのどの会社も業界内では、比較的短期目標に厳しいと言われる会社でした。営業部門が短期目標に注力することは組織として重要だと考えています。ただ、中長期的に考えれば、データドリブンであることを重視することが、継続的な売上の成長に寄与するはずだと思っています。

 多くの組織を見てきましたが、パフォーマンスが低迷する組織で、本質的な課題を理解せずに、短期的な対処療法だけで中長期的に成長した例を見た記憶がありません。あったとしても、神風的に運がよかった場合だけです。そう考えれば、ビジネスの成功は徹底的にデータドリブンであるべきです。データを分析し、PDCAを回し、客観的な課題を一つずつ解決し続ける。しかし、その大前提は、正確性と網羅性が担保されたデータが存在することです。データが存在することと、使えるデータがあることは全く異なるのです。

 売上を最優先し、数字にこだわる厳しい営業組織の業績が低迷し続ける理由のほとんどは、売上>データです。客観的に自己分析が出来ていないか、間違ったデータに基づいた改善活動をし続けています。重要なのは、売上=データに価値観を転換することです。データの収集、入力、整備に手間がかかることを前提に、そのリソースを売上増と同じ優先順位で確保する必要があります。

 経営会議で、いつも同じ売上低迷の議論がされている場合、一度立ち止まって確認してみることをお勧めします。あなたの組織に、データはあるでしょうか。それも、本当に「使えるデータ」があるでしょうか。売上とデータ整備はトレードオフではありません。両立こそが、長期的な成長には必要不可欠なのです。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
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