広告代理店の力を最大限引き出す方法とは?

まずは代理店の収益構造を理解して、正しい期待値設定を!

広告代理店への理解も深まり、良い代理店も選定できれば、いよいよ代理店と一緒にマーケティングを実施していくことになる。では、どのように代理店と仕事をすれば良いのであろうか?実は私は、社内の組織をマネジメントするときに考えるべきことと特別な違いはないと思っている。そもそも、代理店が行っている仕事は、会社によってクオリティに差が出ることがあるかもしれないが、基本的には自社でも実施できることである。という事であれば、実施する人材が自社へ所属していようが、他社に所属していようが、高いパフォーマンスを出すために行う日々のオペレーションのやり方に違いが出るわけではない。このため、このBlogで議論していること、特に、戦略~オペレーション構築を議論したパートの内容を普通に実施すればよいだけである。

たまに自分の部下にもいるので注意をするが、相手が広告代理店で発注者と受注者の関係になると途端に高圧的な態度で接するようになる人がいるが、このような仕事の仕方に私は全く賛同出来ない。なぜ、自分の部下や同僚であれば発しないような言葉を、発注者と受注者という関係性に変わっただけで発するのであろうか?想像するに、このような態度で外注先に接する人物というのは、社内の人間は長期的な関係性、特に、モチベーションのケアをしなければいけないので気を遣うが、外注先のモチベーションは外注先の社内でケアすればよい、関係性は金を払えば維持できると考えているのだと思う。その証拠に、このタイプの人材は、代理店の担当者を理不尽に詰め、疲弊させ、モチベーションを低下させたうえで、最終的にはこの担当者は使えないから変えろと代理店の営業責任者にクレームを言う。本人は、それで厳しく外注先を管理し、成果をあげる努力をしているつもりであろうが、多くの場合それは高い位置からものをいう快感に浸っているだけのケースも多い。もちろんこの話は、広告代理店側でやるべきことがきちんと出来ている場合の話なので、代理店側で改善点が大きい、落ち度があるのであれば、自業自得なので改善すれば済むことである。

なぜ私が、このように考えているかといえば、クライアント側に代理店の各担当者のスキルレベルを評価するスキルがあれば、そんなに変な担当者がアサインされるわけもなく、無理やり担当者を変えさせたところで、飛躍的に優秀な人がアサインされる可能性はそれほど高くないからである。そもそも、そんな人がいるのであれば最初からその人がアサインされているはずである

この時、注意が必要なのが、代理店選定の予算規模のパートで話したポイントである。例えば、ゲーム会社でA、B二つのタイトルがあり、同一の代理店に両方とも依頼し、広告運用チームが2ラインあるとしよう。Aの月額広告予算が1億円で、Bの月額広告予算が1千万円だとする。この状況で、たまにBチームの人材の質がAチームの人材の質よりも低いと文句をいうクライアントがいる。もちろん程度の差はあるので、Bチーム側も事前にコミットしたパフォーマンスから著しく低い成果しか出せないのであれば改善が必要であるが、そもそもBチームの人材の質がAチームよりも低いこと自体は、逆の立場になれば当然のことであり、この2チームを比較して文句をいうことは合理的ではない。お互い、営利企業でビジネスをしているわけなので、相手のビジネスロジックを正しく理解したうえで、現実的に最善な対応を引き出す努力をすべきである。

この例のようなケースで、Bチームのパフォーマンスにどうしても不満があれば、私のアドバイスは現代理店に改善の可否を確認後、難しいということであれば、月額1千万円でもより高いプライオリティで向き合ってくれる代理店を探してみることを勧める。広告代理店を集約したほうが良いか、分散させたほうが良いかみたいな議論もよくあるが、この例の話を考えれば、一概にどちらが良いとも言えないので、個別のケース毎に慎重に検討してほしい。

代理店の担当者も部下同様に教育する

私と一緒に仕事をした代理店の担当者が私のことをどのように思っているのか正確には知らないが(当然、一緒に仕事をして楽しかったと言ってくれるが、それを額面通り受け止めてよいか分からないので)、私としては、代理店の現場のメンバーなどは若い人が多いので、自分の部下と同様、日々の打ち合わせの中で私の持っている経験やスキルを活用して成長する機会にしてもらえればいいくらいの気持ちで接するようにしている。もちろん、個別の媒体のテクニカルな知識では私よりも詳しくあってほしいが、マーケティングの基礎体力を始めとした基礎的なスキルが私より高い人だけでチーム編成することなど正直困難なので、それであれば自社のマーケティングのパフォーマンスを上げるためには、代理店の担当者のレベルを自分で上げてしまった方が早いと考えているからである。つまり、自分と仕事をするメンバーの所属している会社は、仕事をするスタンスを決めるうえでは殆ど考慮していない。

本当であれば、お金を払って相手を成長させる、つまり、トレーニングさせることなど損をしているような気がするが、回りまわってそうではないと思っている。私は、凄く格好よく言えば、代理店のパフォーマンスを最も高く発揮させる一番よい方法は、代理店の優秀なメンバーに自分と一緒に働きたいと思ってもらえるかどうかなのではないかと思っている。もちろん、代理店内の優先順位を自社に向けさせるために最も有効な方法はマーケティングコストの大きさであることは間違いない。ただ、その金額は基本的には会社の規模や成長スピードに依存するので、マーケティングチームだけではコントロール出来ないことも多いし、そもそも成長スピードを上げるためにはマーケティングも高いパフォーマンスをあげなくてはいけない。

代理店の力を最大限引き出す2つのポイント

では、マーケティングコストを一定としたとき、広告代理店に最も高いパフォーマンスをあげてもらう原動力とは何であろうか?ひとつは、代理店内の良い人材に自分たちのプロジェクトに積極的に参加してもらうようにすることである。私の見てきた印象では、代理店の優秀な人材、特にクリエイティブ系の人材は、トップクラスになると自分の時間をどのプロジェクトに使うかある程度選択する権利を持っているようにみえる。完全に自由に選択できないとしても、営業の担当などがあるプロジェクトを手伝ってくれないかと調整に行ったとき、興味を持てないプロジェクトであれば今時間の余裕がないと断るくらいの裁量は必ず持っている。とすれば、代理店内の優秀な人材を自社のプロジェクトに積極的に参加してもらうために、自社のプロジェクトが他社のプロジェクトと比較して参加する意味があると思ってもらえるようにすることは、プロジェクトの成功に結構重要な要素だと思っている。これが逆に、プロジェクトに参加したメンバーに過度なプレッシャーをかけ、代理店のメンバーが次々と病んでいき、代理店内で有名な地獄のクライアントみたいな評判が立ってしまったらどうだろうか?大抵そういう噂というのは規模が大きいほど広がりやすいものだ。そうなったら、何も良いことなどないと思う。

そのような意味でも、広告代理店と良い仕事をするためには、自社のマーケティングチームのメンバーの育成をしっかり行い、マーケティング戦略をブラッシュアップし続け、マーケティングのオペレーションにおけるPDCAの質を徹底的に高くすることが、実は最も重要であると考えている。いくらお金をもらっているからとはいえ、代理店のメンバーからしても、ルーティーン化した通常の作業をするよりも、自身のスキルが伸びたり、これまでにないチャレンジが出来て経験値が増すような案件に積極的に取り組みたいはずだと考えている。そして、それは優秀なメンバー程高いはずである。なぜなら、普通に考えればそうでなければスキルが上がらないので、代理店内で優秀な人材として評価されるわけはないからである。

そう考えると、代理店の高いパフォーマンスを引き出すポイントの2つ目の答えが見えてくる。それは、自社のプロジェクトに参加する代理店のメンバーのモチベーションのコントロールである。自社のメンバーには楽しく仕事をした方がよいと言っておきながら、代理店の担当者は辛さに耐え続けなければいけないなどというのは、甚だおかしな話だと思っている。こういう話をすると、私の考えは甘いと思われる方は多いかもしれない。特に、代理店などの外注先を下請け業者と呼び、地位の上下があると思い込んでいる大企業の社員にそのような傾向が強い気がする。私は自分の経験上、自分の意見は論理的だと思っているし、それで高いパフォーマンスを出してきた実績もあると自負している。折角苦労して良いと思う代理店を選ぶことが出来たのであれば、是非優秀な彼らに高いモチベーションで長く自社の成長に寄与してもらえるようにしよう。

自社のプロジェクトに関わる全てのメンバーの力を引き出す

マーケティングとは仕様が決まった部品を作るのとは違う。プロジェクトに関わる一人一人のメンバーの深い思考と創意工夫の集積で成果が出るものだ。それであれば、その一人一人の力を最大限に発揮されるようにマネジメントすべきではないだろうか?それが社外の人間か社内の人間かなど自社の成長が加速するのであれば、大した問題ではない。