データ分析チーム

データ分析チームメンバーに必要な資質とは?

ここまでで、DWHデータ入力・収集ツールBIツールというデータドリブン経営、デジタルマーケティングの3種の神器とも言えるシステムの整備という活動基盤の話をしてきたが、いよいよその基盤の上で日々のPDCAを回すという活動を行うことになる。

もちろん、その活動は全マーケティング部門の社員が行うことになるわけだが、データの管理・分析という視点で非常に大事になってくるのが、その実行部隊となるデータ分析/データアナリスト/データサイエンティストチームである。この点は、多くの会社で苦労されていると思うので、私の経験から、お役にたてそうな話を紹介したい。

まず最初にデータ分析の担当者に必要なスキルから考えよう。もちろん理想は大学や大学院で統計学の学位を取ったような人なのかもしれないが、普通の事業会社においては必須事項ではないと考える。それよりも必要な素養は次のような点なのではないかと思う。

  • 地頭が良い
  • 数学的な考え方が出来る
  • 事業活動の実態に興味があり、数字の世界に入り込みすぎない
  • SQLは出来なくてもよいが、エクセルのスキルは高い
  • コミュニケーション能力が高い

地頭が良い

一つ目は、これを言っては身も蓋もないかもしれないが、残念ながら地頭の良さである。私の中でのデータ分析チームの位置づけは、データドリブンなマーケティングの基盤となるデータを統括し、CMOの意思決定をサポートするためのチームであるため、自分より頭がよいと思えるメンバーをどれだけこのチームにアサイン出来るかで、その後の活動のパフォーマンスが変わってくる。マーケティング部門の業務のクオリティの精度や、新しいアイディアの出現率、新しい戦略や施策の実現スピードなど、思いつくことは多くある。直近で私と一緒に働いていたチームとの定例など、特にテーマを決めずに、各人が共有するに値する分析結果を持ち寄ってフリーにディスカッションするという形式で実施していたが、ひとつひとつのアイディアが新しい課題の発見や、新たなソリューションの創出など中長期的な自社の経営の方向性を考えるための貴重な情報ソースであった。自分が考えていなかったようなアイディアや、分析の切り口、データの組み合わせかたなど、一人でデータと向き合っているだけでは出てこないような発想は優秀なメンバーの集積でなければ実現しえない。

数学的な考え方が出来る

二つ目は、こちらも当然であるが、データを扱うわけであるので数学的な考え方、発想に強いことが必要である。私はデータ分析というのは、目の前にある課題、解き明かしたい仮説などと、目の前にある利用可能なデータを組み合わせて、何らかの答えを作り出す数学の証明問題のようなものであると考えている。そのためには、リアルな世界で起こっている事象に対して、それがデータとして数値としてどのように落とし込まれており、そこに至るプロセスやその先で起こる結果との関係性をどのように数字のロジックとして関係づけられるか?この点を的確に、かつ、スピーディーに実行するためには、ある程度の数学的な思考方法が得意である必要があると考えている。

事業活動の実態に興味があり、数字の世界に入り込みすぎない

三つ目は、二つ目と関連するが、事業活動の実態に興味を持ち、数字の世界に入り込みすぎないということである。もちろんデータ分析とは数字の世界であるため、数字で考えることは重要であるが、事業会社のデータ分析の目的は事業の拡大、改善であるため、自分たちが扱っているデータが、自分たちの顧客やクライアント、社員のどのような行動による結果なのかを常に考える必要がある。決して大学の研究室や金融商品のデータアナリストのように数字の世界のみに没頭していてよいわけではない。そのためには、いくらデータ分析のプロフェッショナルであったとしても、事業や人に興味を持ち、常にデータと現実の世界の間で思考を行き来させ、机上の空論のような提案ばかりしないようなチームにしていかなければいけない。

SQLは出来なくてもよいが、エクセルのスキルは高い

四つ目は、非常にストレートなスキルであるが、SQLの習得である。今まで3社でデータ分析のチームを直接、間接で見てきたが、結論としてやはりSQLが使えないと、このエリアでプロフェッショナルに活躍するためには厳しいと考えている。もちろん、エクセルでもある程度までは分析が可能であるが、やはり大規模なデータや、複雑な条件の組み合わせを伴う集計などには限界があるのも事実である。ただ、これも経験上、エクセルのスキルレベルが高い地頭の良い人材であれば、チームにアサイン後からであってもSQLの習得は可能であるケースが非常に多いため、本人に習得意思があればアサイン前からの必須事項とする必要なないと思う。

コミュニケーション能力が高い

最後は、コミュニケーションの高さである。この点は3点目のポイントと連動するが、データ分析をしたものは、その結果が正しいかどうかの答え合わせを自分でできたほうが自走力が増し、提案の精度の改善スピードが加速すると考えている。そのためには、社内での実態のヒアリング等を通じて、自分の出した分析結果と事業実態のつき合わせが必要になってくることも多い。もちろんそこには本人の性格などもあるため、必ずしもMustの要素という訳ではないが、理想的には、そうあって欲しいと思っている。但し、本条件については、そのサポート役をつけてあげれば解決することも出来るため、他の条件がそろっているのであれば、優先順位を落としても構わないと思う。

データ分析チームの役割

チームのメンバーがそろえば、活動開始である。データ分析のチームが担う役割を考えてみよう。もちろん会社によって組織間の線引きが異なると思うので、その辺も含てコメントする。想定されそうな役割は次のようなものとなる。

  • DWHやBIツールの管理、運用
  • 会社全体もしくはマーケティング部門のKGI、KPIのフレームワーク構築
  • アドホックなテーマのデータ分析
  • データ分析から導き出された問題点の改善提案
  • DWHやBIツールの管理運用

DWHやBIツールの管理、運用

この点は、会社によって、データ分析チームが担うのか、システム部門が担うのかなど、議論が分かれるところである。特にDWHの管理については注意深い議論が必要である。もちろんDWHのシステムの管理まで担うとなると、チーム内にそのスキルセットがある人材が必要になり、ハードルが上がってしまうため、多くの場合、システム部門に協力を依頼するか、外注に頼るかという選択肢になる気がする。それは、各社の状況と確保できる人材により検討するしかないと思うが、ここでは、それを決めるうえでのマーケティング的な視点での注意点を記載したいと思う。

それは、どのような体制になったとしても、運用のスピードを確保できるようにすることと、データの管理が全社的にできる体制が両立できる方法を見つけるということである。

これは、私がよく見る事例で、すべての会社がそうという訳ではないが、特にDWHの運用をシステム部門に完全に委託する状況になると、スピードが非常に遅くなるケースが多い。これは、企業の規模が大きくなればなるほどその傾向が強い気がするが、社内利用に限定されることが多いDWHの管理運用に社外向けサービスと同等のサービスレベルを求められたりすることで、社内調整時間が膨大にかかってしまうようなことが多く発生することが主な理由だったりする。もちろん長い目で見ると、そのようなカッチリしたシステム設計等は重要ではあるが、データドリブンなデジタルマーケティング成功の合言葉がPDCAの高速回転であるため、データ分析のスピード感が落ちるのはなるべく避けなければいけない。このようなケースで、私のアドバイスは、DWHを外部向けのサービスでの活用を避け、社内のデータ分析用のDBとして独立させておくことである。例えば、消費者のID管理された個人ページなどでDWHに格納されたデータを表示するとなった場合、データの正確性は100%に近いレベルで管理されていなければならない。Aという顧客にBという顧客の情報を見せるなどしたら大問題である。しかし、社内の分析用であれば、目的は統計的な傾向を分析することであるため、そのレベルでのデータの正確性は必ずしも必要ではない。つまり前者のように外部向けのサービスの連携をいったんしてしまったが最後、DWH側のシステム変更などが途端にしにくくなったりする。また、DWHと外部向けサービスを接続してしまったりすると、サービスのパフォーマンスレベルも維持しなければいけなくなるため、サーバー負荷の高い大規模なクエリを回すなどの制限も出てきてしまう。そうなると、データ分析の担当者が片手間で運用するレベルでは収まらず、結局システム部門に運用も任せなければいけなくなるという状況にならざるを得ない。

もちろん、個人情報の保護の観点は厳重な管理レベルが要求されるが、それ以外の柔軟性は、極力確保できるのが理想だと思っている。

ただ、DWHだけでなく、BIも同じであるが、データ分析チームが余りに自由にやりすぎてしまうと、システム運用経験の不足からシステムの中身がブラックボックス化してしまい、属人的な運用になってしまうことには注意が必要である。この辺はシステム部門のドキュメンテーションや情報共有のメソッドもは早い段階で取り入れておくべきなことも言及しておきたい。

会社全体もしくはマーケティング部門のKGI、KPIのフレームワーク構築

分析基盤の構築と運用体制が決まればいよいよ具体的な分析タスクにチームは突入していく。まず取り組むべきは、事業改善の骨格となるKGI、KPIという日々の活動のパフォーマンス改善の幹となるKPIツリーを作成し、それを帳票化するという作業が必要である。BIツールの項でも説明したが、チームがDaily、Weeklyで定期的に見るべき項目と、問題・課題が出てきたときにドリルダウンして分析する枝葉の部分を構造化する。この基盤により、現場のメンバーが日々のPDCA活動の中で、個々に課題や問題点を発見し、それを自分でデータを確認・分析できる環境が整い、データ分析チームだけに頼らない各メンバーのデータ分析の自走化が実現する。

なお、繰り返すが、この作業は当然一回では終わらない。特に枝葉の部分で見るべきポイントはPDCAの精度向上とともに、どんどん増えていく傾向がある。可能であれば、データ分析チームのメンバーは役割分担を決めるなどして、担当領域の現場のPDCA活動の情報を定期的にキャッチアップし、各現場においてどのようなデータ分析のニーズがあり、それを実現するためにはどのようなデータが必要なのかを把握し、解決法を提供していくというサイクル構築することが理想である。これが実現すると、データ分析チームにも独自のPDCAが周りはじめ、その状態になると、マーケティング組織としての分析の精度は放っておいても向上していくことになる。

また、このようなマーケティング運営のためのKGI、KPIのフレームワークが構築されると、定期的に発生する事業計画の作成や、月次のパフォーマンスレポートやそれに基づく短期的な運用計画・予算の策定なども高い精度で構築できるようになる。

アドホックなテーマのデータ分析

データドリブンマネジメントの基本は日々のオペレーションの骨格となるKPIフレームワークを構築し、定期的に状況把握することとなるが、その中で、当然それまで気が付かなかった課題が発見されたり、逆に何が課題なのかが分からないのにパフォーマンスが悪化、もしくは、予想以上に良化するなど既存のKPIフレームワークでは説明不可能な状況が発生したりする。

このような状況では、その課題解決や原因分析のためにデータ分析チームがアドホックな深堀分析をすることになる。もちろん状況に応じて分析の難易度も、手法も異なるため、具体的にここで何かを述べることは難しいが、結局はここでもすべきことはPDCAであり、分析のスタートは課題や原因の当たりをつける=仮説(P)を作るというところからしか始まらない。このPの精度がどれだけ高いかで、アドホック分析のスピードは全然変わってくることになる。このため、精度の高いアドホック分析をするためには、分析チームのメンバーは数字の世界に埋没するのではなく、事業活動の現場で何が起こっているのかに興味を持つことが重要であると私は考えている。仮説のあたりは私の経験上データからだけでは見つけづらく、現場から見つかるケースの方が多いと思っている。

データ分析から導き出された問題点の改善提案

データ分析チームの業務範囲としてアドホック分析に基づいた改善提案を含めるかどうかについては、線引きはそれぞれであるが、個人的には改善提案まで含める方が良いのではないかと考えている。もちろん、それはチームメンバーの能力とパーソナリティにも依存するが、アドホック分析でも述べたように、分析チームのメンバーの事業現場理解が低いとデータ分析の精度もスピードも向上していかないと考えているため、データ分析チームが事業現場のメンバーとのコミュニケーションを取る場としても、改善提案の業務まで業務範囲に含める方が事業会社のデータ分析チームの質の向上のためには良いのではないかと考えている。

ここまでで、データ分析チームのメンバーの必要スキルとその具体的な活動の概略について見てきたが、ここで述べた内容を読んだだけでも、如何にこのデータ分析チームが重要であるかはご理解いただけたと思う。このチームのメンバーの質はデータドリブン経営、デジタルマーケティングの質に直結する問題であると私は考えている。ただ、データ分析チームを組成する時の一番の問題は、良い人材の獲得である。はっきり申し上げて、日本ではデータドリブンな経営が重視されてこなかった背景から、よいデータアナリストのプールが市場にいないという現実がある。多くの企業が苦労すると思うが、是非粘り強くチャレンジしてもらえればと思う。