その組織変更って本当に必要?

頻繁に組織変更がされる会社の悪循環

組織の最後のパートとして、簡単に思っていることをひとつ話しておきたい。組織の話がこれで最後というと、このBlogを読んでくださっているかたには、他のパートと比較してあっさりしていると感じられる方がいるかもしれない。結論として、そのご指摘は非常に正しい。なぜなら、私はこれまで3つの会社で経営の立場/経営に近い立場で仕事をしてきたが、結論から言って組織論の話が好きな経営者に経営能力が高い人というのは余りいないと思っている。このような経験から、私自身は、今回お話ししたようなポイントを検討して一度組織の骨格を作ったら、それなりの長期間その構造はいじらないようにしている。事実、楽天で5年くらい、大手ゲーム会社で5年半、トライトで3年半ひとつの部署をマネジメントしたが、それぞれで自分が一度決めた組織の骨格は一度も変更したことがない。

一方で、事業が上手くいかないと、やたらと組織変更と人事をいじりたがる経営者というのをこれまで多く見てきた。私が良い経営者であるかどうかは棚に上げておくとして、私なりになぜ、そのようなことが起こるのかを述べてみたい。

私の見てきた事例から思うのは、組織と人事をいじりたがる経営者の一番の共通点は、自社の事業を深く理解していないことである。読者の方からすれば、そんなことがあり得るのかと思うかもしれないが、じつはそんなことは全然あるのである。そのからくりはこんな感じである。複数の事業を多角的に展開するある企業は、ある事業が上手くいかないと定期的に事業責任者を入れ替える人事異動を行いがちとなる。最初の打ちは事業部内から内部昇格をしてきたが数年たってその人材プールも尽きてしまったので、次第に他の事業部からの異動者が事業部長のポジションにつくようになった。ただ、その事業のパフォーマンスは一向に改善せず、相変わらず事業責任者は定期的に変更され続けている。

このような環境の場合、そもそも事業部長の在籍期間が短すぎて、事業部の現場のメンバーと比較して事業部長がその事業の理解度が高いという状況になる可能性は非常に低い。このため、事業パフォーマンスが悪い時に、何が問題なのかを自分で考えられず、自分の部下に聞くというソリューションを多様することになる。しかし、現場に近い部下が問題点を理解しているのであれば、少なくても問題は改善の方向に向かっているはずである。このような状況になると、新任の事業責任者というのは一向に自分の事業の本質を深く理解できるようにならない。

では、そのような時に事業責任者ができることは何であろうか?上司にパフォーマンスが上がらない説明しようにも部下の受け売りプラスアルファくらいの事しか言えない。そもそも、自分でも原因がわからないのであるから、それしかしようがない。ただし、何もしないわけにも行かない。どうしよう。。。。

組織変更と人事異動って経営している気分になれるお手軽手法

こういう時に登場する素晴らしいソリューションが、組織改編と人事異動である。なぜそうなのであろうか?その答えは簡単である。組織改編とか人事異動というのは、自分の配下であれば100%に近い形でコントロール可能なことが多い。また、変更のBefore/Afterの比較をして、現状の問題点を列挙し、Afterでその問題点を解決する方法を説明することも容易である。そうすると、なんとなく考えて経営をしているように自分でも感じられるし、周りからもそうみられている気になれるのである。

しかし、私の経験上、ある事業やある組織が上手くいっていないとき、本質的な理由が組織の部署の分け方に起因していることは実は余り多くないということが多い。一方で、これまで見てきたように、組織というのはあらゆる状況にオールマイティに適用可能な組織形態などというものは存在せず常にメリットとデメリットが共存する。そのような性質のもののBeforeの悪い部分とAfterの良い部分を並べてこちらの方がよいなどという改善策はそもそも改善策になっていないケースが多いのである。

さらに良くないのは、組織変更に飽き足らず、人事で人を置き換えるパターンである。人事も経営者のコントロール可能な権限であることが多いが、そもそも上手くいっていない事業を人を入れ替えて上手くいくようにしようというソリューションは問題が本当にその人にあったのか、それ以外のところにあったのかが分からなければソリューションになっていないことが多い。

もちろん、その事業の主要なポジションにいて、なぜ自分の事業が上手くいっていないのか正しく説明出来きず、周りに納得してもらえていないのであれば、交代させられるその人にも問題があるが、私はその人が一人でやり切れていないのであれば、上司である人間が一緒に考えて、その問題を解決できるように導いていくのが上司の責任であると思う。それをしないで、担当している人間に問題があると人を繰り返し入れ替えるようなやり方で事業が改善した姿をこれまで見てきて殆ど経験したことがない。例外的なのは、交代前より格段に優秀な人が入ってくるというケースであるが、結構稀なケースである。なぜなら、そんな候補者がいれば、真っ先にその人に任せるであろうからである。

事業というのは、上手くいかなくなった際、なぜ上手くいかないのかを理解するのが非常に複雑で難しかったりする。特に事業の規模が多くなり、関わる人数が多くなると見えにくくなるものである。そうなると、どうしても分かりやすいところに答えを求めたくなる。私はその代表が組織変更と人事だと思っている。

組織論などというのは、その組織形態の本質的な問題点をきちんと理解して、その組織の置かれている現在地を正しく理解して、決めてしまえば、そう簡単に違う組織にした方がよいというような状況にはならないものだと思っている。私は、上手くいかなくなった事業が、頻繁に組織変更をしだすと、結構わかりやすい黄色信号のサインなのではないかと思っている。

私の議論の中で組織の話が薄い理由は、そんなわけである。貴方の所属している組織は大丈夫?