Full Funnel Marketingとは?

マーケティングにおけるFunnelとは?

このBlog内でも何度か登場しているFull Funnel Marketing(フルファネルマーケティング)についてここでは議論をしていきたいと思う。

まず、大前提としてFull Funnel Marketingとはどういう考え方かというのを考えていきたいと思う。そもそもFunnelとは、日本語でいうと「漏斗、じょうご」のことをさす。口の小さい瓶などに液体をこぼさずに入れるための道具で、理科の実験などで学生時代に使ったことがある方も多いだろう逆三角形の道具である。

Full Funnel Marketingとは、この漏斗の形になぞらえてつけられたネーミングで、概念を図式化すると、以下のようになる。

元々は最下層部の上向きの三角形の部分がなかった純粋な逆三角形の概念であったのでFunnelと名付けられていたのであるが、その点については後ほど説明する。

まず逆三角形の部分は大きく3つに分けられる。Upper(最上部)、Middle(中段部)、Bottom(下部)である。もっと細かく分けようと思えば分けることも可能であるが、余り複雑にしても分かりにくいので、ここでは3段階でシンプルに考えることにする。

まず、マーケティングの理論においては、人がものを買ったり、サービスを利用したりするまでに、何段階かのステップを経る考える。AIDMAという言葉を聞いたことがある方もいるだろう。A(注目、Attention)、I(興味、Interest)、D(欲求、Desire)、M(記憶、Memory)、A(行動、Action)という人が何らかの商品・サービスを認識してから購入するまでの心理的な流れとでも考えてもらえればよい。凄く分かりやすく言えば、人は何かものを買うときに、A:そもそもその商品を知り、意識がその商品に向かい、I:その商品に具体的に興味を持ち内容を理解する、D:その結果その商品を欲しいと思う、M:欲しいという欲求を購入するまで記憶して維持する、A:購入するくらいの5段階を経るよねという話である。現実には、例えばTVCMを見てその商品を欲しいと思いすぐにネットで購入してしまう場合などはこの5段階がほぼ同時に起こったりする。いわゆる衝動買いというやつである。ただ、その場合も一つ一つの時間が短く、深さも浅いかもしれないが、似たようなプロセスはおそらく脳内で踏まれているよねという話である。Full Funnelの概念は、このステップを上から下に流れるように表現し、しかもそれぞれの段階のユーザー数の概念を同時に表現したものだと考えてもらえればと思う。ちなみに今回3段階でシンプル化すると述べたが、主にMiddle Funnelの部分にI、D。Mの3段階を纏めてしまっているためで、これを全部分けて5段階とすることも可能である。

形が逆三角形になっている理由は、よほど特殊な例でない限り、AIDMAの5段階は最初のAから順番に数が少なくなっていくことを表している。これは普通に考えれば分かるであろう。例えばTVCMを配信したときに、A;CMを見て認知した人の数と、I:それに興味をもち内容を精査、理解する人の数を比較すれば、普通はIはAの内数になるため、A>Iの関係になる。それ以降も同様のロジックで5段階であれ、3段階であれ、そのステップを経て下に流れるたびにユーザーは零れ落ち最終的に購入するユーザー数は認知した人から大幅に減っているというのが一般的である。

AIDMAからAISASへ

勉強不足で、AIDMAを言い始めたのが誰か知らないが、おそらくこの概念はInternetが一般に普及する2000年前後よりだいぶ前にすでに存在していたと思う。少なくても私がマーケティングを始めた時にはすでに存在していたので、間違いないと思う。ただ、先ほどECでの衝動買いのプロセスでも話したように、ネット社会になって、このAIDMAに当てはまらない事例が増え、消費者の行動プロセスの変化が起きたよねということで、Version UpされたものがAISASというモデルである。AIは一緒で3段階目のSから変わってくる。S(検索、Search)、A(行動、Action)、S(共有、Share)という感じである。若い方からすると、DMAよりもSASの方がしっくり来るのではないだろうか。何かものに興味を持ったら、GoogleとかInstagramとかで調べて、よさそうだったら購入するみたいな行動プロセスがネットの普及で一般化してきた。そして、その商品が良かったり、単純に手に入れてうれしい、自慢したいみたいなときに、SNS等に投稿してShareしたり、Amazonや楽天で商品レビューを書いてお勧めしたりという行動が一般化してきたため、最後にShareという概念が追加されたという感じである。このため、当初はきれいな逆三角形でネーミングと概念図がほぼ一致していたものが、Funnelと言いながら一番下に上向きの三角形が追加されてしまっているという分けである。

Full Funnelの各段階を適切にコントロールする

ここまでで、マーケティングにおけるFunnelの概念はご理解いただけたと思う。では次のステップとして、Full Funnel Marketingについて詳細に理解していきたい。Full Funnel Marketingを一言で言えば、

「Funnelのすべての段階に対して適切な量と質のマーケティング施策を実施し、Funnel全体を適切にコントロールするマーケティング手法」

という感じである。ここで重要なのは、「すべての段階に適切な量と質のマーケティング施策を実施し」の部分である。マーケターが何らかのマーケティング施策をするときに、大なり小なりその施策はAISASの5段階に効果があるようなことが多い。しかし、その商品やサービスが置かれている現状において、現状何が問題で売れていないのかを正しく理解出来ていないとどの段階を改善させる施策をどの程度の量投下すれば良いのかが分からないし、今やっている施策のバランスが良いのかが分からない。Full Funnel Marketingというのはその全体の状況を理解したうえで、マーケティング施策の組み合わせを適切にデザインし、Funnel全体をコントロールしていこうということになる。

2パターンの家庭用ゲームソフトの事例

具体的な例で話してみよう。完全新作の家庭用ゲームソフトと毎年1本新作が20年間発売されている家庭用ゲームのスポーツゲームの二つを比較して考えてみよう。

まず前者の完全新作ゲームをFull Funnel的な視点で考えてみるとどのように理解出来るであろうか?まず、完全新作のゲームである場合、当然何もしなければ認知度はゼロである。世の中に存在していなかったのであるから、認知があるわけがない。このため、商品の認知を高める施策は必須である(Upper Funnel)。そのうえで、世の中には既存の強力な人気タイトルがたくさんあるのであるから、この新作ゲームが既存のものよりどのように面白くて、技術的に優れているのかなどゲームの内容もユーザーに理解してもらわなければいけない(Middle Funnel)。そして最後に、ゲームを面白そうだと思い始めているユーザーに購入するように最後の背中を押すための販促施策、例えば予約限定割引とか、予約者限定のオマケ施策などを行い、最終的に購入してもらう(Bottom Funnel)。最後に、買ってもらったユーザーにこのゲームは面白いと共有して、まだそのゲームに興味を持っていないユーザーにお勧めしてもらうために、SNSでのコミュニティマネジメント施策(Share)を実施する。つまり、完全新作のゲームは、Full Funnelのすべてのプロセスを抜け漏れなく行わないと販売数は伸びにくいと考えられる。

一方で20年続く老舗のスポーツゲームはどうであろうか?そもそも20年続いているということは、それなりの固定ファンを持っているということを意味している。もちろん前作から大規模に販売数を伸ばしたいという目標がある時などは別であるが、既存の固定ファン層に確実に購入してもらえば、一定数の売上は確保できるため、認知施策については、新作が今年もでますよということを確実に知ってもらう程度で問題ない(Upper Funnel)。固定ファンがついているようなゲームの場合おそらく最も重要なのは、今回の新作が前年の商品からどのように進化していて、今年も新作を買う価値があるのかを説得できるかどうかで、固定ファン層のうち何割が今年の新作を買ってくれるかが決定される。このため、今年度の新作の明確なアピールポイントの理解を促進する施策は必須である。また、この施策は自社商品の固定ファンだけでなく、競合商品がある場合はそのファン層に対しても差別化ポイントをアピールすることに繋がるかもしれない(Middle Funnel)。そして最後は販促施策であるが、ここも重視されるポイントである。固定ファンの理解が深ければ、どのような特典を販促施策として行えば最後の後押しになるかは理解しているはずなので、最後の一押しを販促施策で実施する(Bottom Funnel)。長年続いているタイトルであれば、当然SNSの公式アカウントや最近であればゲーム実況などをしているインフルエンサーがいることも多いため、コミュニティマネージャーはそのようなファンたちの良い情報拡散を促進する施策も実施する(Share)。

完全新作ゲームのFunnel
老舗スポーツゲームのFunnel

二つのFull Funnel施策を概念図で表現するとこんな感じになるのではないか。まず、完全新作タイトルの場合、Funnelのすべての段階でバランスよく施策を実施しなければいけない。このことは何を意味するかといえば、マーケティング予算を分散させなければいけないことを意味する。よほど会社として自信があるタイトルでもない限り、成功するかどうかもわからない完全新作のゲームに最初から大規模なマーケティング予算を投下することは稀なので、その少ない予算の中でバランスよくマーケティングをするとなると、マーケティング施策は必然的に商品のターゲットとなりそうな顧客に出来るだけ絞り込んで施策をしなければいけない。このため上部の逆三角形は非常に鋭利な形にならざるを得ない。その代わり最近は、インディー系のゲームのヒットタイトルに特にその傾向が強いが、そのゲームが本当に面白く品質が高ければ、商品販売後にネットなどの口コミで売上が一気に拡大していくことがある。このため、販売開始時のマーケティング予算が乏しい場合には、時間がかかることは覚悟で、Shareの施策にリソースを大量投下するなどの手法も考えられる。

完全新作タイトルで、大きな売りあげを上げようと思えば、全体のマーケティングの規模を大きくしなければいけないが、多くのゲーム会社はそのリスクを減らすために、例えば有名なIP(漫画やアニメのキャラクターの利用など)ゲームに固定ファンがいなくても、IP大規模な固定ファンがいる前提でその獲得を目指すことなどで、Upper Funnelの人数を増やし、Middle&Bottomに予算を投下したり、そもそも新作の売上目標を上げてマーケティング予算を拡大することで、Funnelの大きさを大きくすることを狙ったりする。

一方、20年続く老舗タイトルの場合は、20年蓄積した固定ファンはすでに存在するので、そこからどれだけ購入者に転換させられるかがポイントとなる。このためFunnelの形としては、Middle&Bottom層での離脱をどれだけ減らせるかがキーになるため、この2つに施策の重点が置かれる。このため、理想としてはMiddle&Bottomが鋭利な三角形ではなく、台形のような形になっていくのが理想である。また、当然固定ファン同士のコミュニティは存在するはずなので、その場合はShare部分でも大きな売上の拡大が見込まれる。

但し、このような毎年Up Gradeされるようなタイトル(ナンバリングタイトルと呼ぶ)の場合は、Middle Funnelで悪い評判が立ってしまったり、商品に前年から上積みが少なかったりすると、マーケティング的に出来ることは残念ながら非常に少ないため、過去作品や競合作品との相対的な商品クオリティが商品販売の成否に占める割合は大きい。

 今回は、一例として新作ゲームと老舗タイトルの比較でFull Funnelのバランスの違いを説明したが、同じゲームタイトルでも商品/ブランドライフサイクルの違いでこのように大きな差がでる。もちろん、Full Funnelのバランスはそれ以外にも、商品、サービスの特性、競合環境など様々な要因によって変わってくる。このため、やろうとすることは普通なことに聞こえるかもしれないが、よいFull Funnel Marketingのデザインをすることは、非常に難易度が高い。

次回以降は、Full Funnel Marketingを行う上で考えるべきポイントを紹介する。但し、何点か事前にご理解いただきたいポイントを最後に言及する。ひとつ目は、Full Funnel MarketingのUpper&Middle領域の具体的な施策の検討方法などは、私よりも伝統的マーケティングの手法で活躍されている方の方が遥かに経験値も知見も深いため、その点を詳しく知りたい方は、そちらで情報を得ていただければと思う。ふたつ目は、伝統的な手法について議論する代わりに、私からは、デジタルマーケティングを中心に行っている企業におけるFull Funnel Marketingというある程度限定されたテーマで話をするということである。ただし、国内外でいろいろな方と話をしてきたが、正直申し上げて、このエリアはまだまだ発展途上で、誰も正解に到達していないと思っている。少なくても私は納得のいくモデルやフレームワークの話を一度も聞いたことがない。そうはいっても、様々なトライをしてきたので、そのあたりの試行錯誤も含めて、皆さんに情報提供していきたいと思う。