売上を追う営業組織ほど売上が伸びない理由

数字にこだわり、売上増を最優先しているのに業績が低迷する。

 売上目標が達成できずに苦しむシチュエーションは誰しも経験したことがあるはずです。経営会議などで、営業現場からよく聞く説明が、「現場の徹底力不足」とか、「数字への執着が足りない」などの発言です。そして、その解決先が「最後まで諦めずにやり抜く」というものです。

 一方、私はこのような議論に否定的です。なぜなら、議論が客観的な事実やデータ分析に基づいたデータドリブンではないからです。もちろん、営業組織が売上を重視して、組織を引き締めてマネジメントすることが悪いとは思いません。しかし、長期的に売上未達を繰り返す営業組織の問題は、精神論ではなく、構造的な課題にあることがほとんどです。

データがあるのは当然ではない

 私は、営業組織が、客観的な構造的課題に向き合いにくい理由は、データの未整備にあることが多いと考えています。特に、オフライン要素の強い営業組織などで、データ分析し始めると浮上する問題が分析するデータがないことです。より、正確に言うと、分析に足るデータがないことです。課題分析するための十分なデータがなく、本質的な課題が理解できないため、正しい改善策も検討できないという負のサイクルに陥っています。

 この状況になる理由は、売上最大化を最優先にするという営業組織として当然と思える常識が、データ整備を結果的に軽視することに繋がってしまうジレンマに陥るからです。なぜ、売上最大化がデータ整備を邪魔するのか。その理由を見ていきましょう。

データ整備には手間がかかる

どんな企業でもデータが全くないことはあり得ません。少なくても会計帳簿はどんな小さな企業にも存在します。ただ、企業のパフォーマンス分析のためのデータには、「正確」で「網羅的」あることが求められます。

 使えるデータの条件である「正確性」と「網羅性」を担保するためには、組織はデータを収集・整備する必要があります。特に、バリューチェーン内にオフラインのプロセスが存在する場合、活動データは自動的にサーバーに蓄積されることはありません。人が何らかの方法でデータを収集し、入力し、整理する必要があります。

 オフラインビジネスで、使えるデータが整わない理由は、このプロセスに手間がかかるからです。

 まず、収集・入力から考えてみましょう。2010年代前半にゲーム産業で働き始めたころ、家庭用ゲーム機のソフトはまだ、リテールでパッケージ販売が主流でした。ゲームソフトは売れ残りが返品されるため、正確な業績を把握するためには、流通業者向けの売上高だけでなく、流通在庫も把握しないと業績評価ができません。ただ。メーカーは、リテールの販売システムにアクセスできるわけではないため、流通在庫の把握には、ヒアリングによる情報収集が必要です。ただ、流通業者の立場では、そのヒアリングに協力する義務もメリットもありません。営業部門は、流通業者と良いリレーションを作り、データ収集の協力を仰きます。このプロセスを網羅的に行い、正確な売上・利益の予測をするだけでも、膨大な手間がかかります。

 もし、流通業者から、苦労してデータを収集したとしても、次のステップとして、社内でのデータ整備の手間がかかります。流通業者毎にバラバラなフォーマットで提供されたデータを、社内共通のフォーマットに変換し、集約する必要があります。

 このように、オフライン要素がバリューチェーンに存在する場合、分析用のデータを準備するのは非常に多くの手間がかかります。

営業でデータが軽視される本当の理由

 この手間を理解できると、売上最大化に注力する組織が、客観的な分析を軽視し、精神論に走りがちな理由が見えてきます。

 パッケージゲームソフトの例でもわかるように、オフラインビジネスで社外からデータを収集し、入力する役割は営業部門が担います。営業部門は、社外とのコミュニケーションハブであるため、多くの企業で同様な状況です。ここで問題になるのが、データ整備にかかる手間にどの程度リソースを割くのかです。具体的には、営業組織のメインミッションである売上と、データ整備の手間の順位付けです。短期売上の達成を重視するほとんどの営業組織において、優先順位は売上>データとなります。その結果起こるのが、

売上優先→データ未整備→原因分析不足→精神論依存

というサイクルです。恒常的に目標未達が続き、売上優先度が高くなると、それに反比例してデータ整備状況は悪化します。すると、客観的な分析がますますできなくなるという負のスパイラルが発生します。

売上=データへの価値転換

 私は、3つの事業会社を経験しましたが、そのどの会社も業界内では、比較的短期目標に厳しいと言われる会社でした。営業部門が短期目標に注力することは組織として重要だと考えています。ただ、中長期的に考えれば、データドリブンであることを重視することが、継続的な売上の成長に寄与するはずだと思っています。

 多くの組織を見てきましたが、パフォーマンスが低迷する組織で、本質的な課題を理解せずに、短期的な対処療法だけで中長期的に成長した例を見た記憶がありません。あったとしても、神風的に運がよかった場合だけです。そう考えれば、ビジネスの成功は徹底的にデータドリブンであるべきです。データを分析し、PDCAを回し、客観的な課題を一つずつ解決し続ける。しかし、その大前提は、正確性と網羅性が担保されたデータが存在することです。データが存在することと、使えるデータがあることは全く異なるのです。

 売上を最優先し、数字にこだわる厳しい営業組織の業績が低迷し続ける理由のほとんどは、売上>データです。客観的に自己分析が出来ていないか、間違ったデータに基づいた改善活動をし続けています。重要なのは、売上=データに価値観を転換することです。データの収集、入力、整備に手間がかかることを前提に、そのリソースを売上増と同じ優先順位で確保する必要があります。

 経営会議で、いつも同じ売上低迷の議論がされている場合、一度立ち止まって確認してみることをお勧めします。あなたの組織に、データはあるでしょうか。それも、本当に「使えるデータ」があるでしょうか。売上とデータ整備はトレードオフではありません。両立こそが、長期的な成長には必要不可欠なのです。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
  • 書店リンク :Amazon楽天ブックス

【新刊】楽天ポイント生みの親 堀内公博氏初の著書『なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント』日本実業出版社より6月19日発売

※本プレスリリースは、2026年6月19日に株式会社アップルシード・エージェンシーより配信された内容の転載です。

「戦略は正しいのに成果が出ない」のはなぜか――楽天創業期から25年以上、最前線を走ったマーケターが成果を出し続けるマーケティング組織をつくるための手法を伝授

作家のエージェント会社、アップルシード・エージェンシー契約作家であり、25年以上にわたりネットビジネス・デジタルマーケティングの最前線を走り続けてきた堀内公博氏の初の著書『なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか? 事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント』が日本実業出版社より2026年6月19日に刊行されました。
本書は、デジタル化時代に重要性が増すマーケティング組織の実行力向上に焦点を当て、体系化する新たな視点を提供する一冊です。

伝統的マーケティング理論をベースに構築された既存のマーケティング活動は、「戦略(P)」の精度向上に焦点を当ててきました。一方、戦略の実現のための手法は精緻に議論されてきたとは言えません。このため、精緻な戦略を立てても成果が出ないことに課題を持つ多くの経営者や管理職がいるにもかかわらず、その理由や改善策を考えるための体系的なガイドが提示されていないのが実態です。

著者の堀内氏は、マーケティングのデジタル化により得られた膨大で、精緻なデータを活用することで、戦略の実行プロセスは可視化できると指摘します。そして、データドリブンにPDCAの「精度」と「回転速度」を向上させることで、組織の実行力は上がるとしています。

PDCAの精度と回転速度を上げるための手法として、本書では「P<DCA」、つまり、P(戦略・計画)よりも、DCA(実行、検証、改善)に焦点を当てています。そして、DCAに徹底的に磨き上げた組織を、DCA型マーケティング組織と呼び、DCA型組織構築の手法を豊富な事例を交えつつ、体系的に解説しています。

◆ 楽天創業期から積み上げた25年以上の知見を凝縮した実践的な内容

堀内氏は、社員20人程度だった草創期の楽天に入社。 楽天グループのマーケティング部門を1人で立ち上げ、20年以上にわたり楽天ポイントやアフィリエイト、クーポン機能などの基盤を世に送り出してきました。その後、大手ゲーム会社では伝統的組織をグローバル向けのデジタル組織へと変革させ、大手の医療福祉系人材企業ではCMOとして国内有数のデジタルマーケティング予算を持つ組織を再構築しました。
本書では、25年以上にわたる堀内氏の多様な業種業態でのマネジメント経験をもとに
-マーケティング戦略の立案
-KPI設計
-オペレーション構築
-データ分析基盤整備
-組織設計
-人材育成
までを体系的に解説。単なるマーケティング手法やデジタル広告のノウハウ本ではなく、「成果を出し続ける組織」をつくるための実践的なマネジメント論となっています。

◆本書をおすすめしたい方

・マーケティング投資の成果が見えず悩んでいる経営者
・DXやデータ活用を推進したい事業責任者
・マーケティング部門を率いるマネジャー
・データドリブンな組織づくりを進めたい企業
・AI時代に通用するマーケティング人材を育成したい方

本書は、マーケティングを題材としてDCA型組織構築について説明されています。しかし、その内容は、マーケティング責任者だけでなく、デジタル環境における組織の実行力に課題意識を持つ経営者、事業責任者、DX推進担当者、人事責任者にとっても、有益な示唆を与える内容となっています。
さらに、20年近く前からAI化が進むデジタルマーケティング領域で構築された組織開発手法は、AI化時代の組織構築の考え方としても有効です。

◆目次

【序章】デジタル時代の最強マーケティング組織をつくる
【第1章】「高速・高精度のPDCA」を阻害する5つの要因
【第2章】マーケティング戦略立案とKPI設定
【第3章】マーケティングオペレーションの構築方法
【第4章】データを意思決定につなげる管理・活用の技術
【第5章】マーケティングを機能させるための組織整備
【第6章】「優れたマーケター」の人材育成方法

◆著者/堀内 公博(ほりうち きみひろ)氏プロフィール

株式会社データドリブン・コンサルティング代表取締役。
一橋大学院生時代の1999年にアルバイトとして当時社員20人の楽天株式会社で働き始め、その後11年半で1万人以上に拡大する超急成長を経営の中心で体験。2002年には、楽天グループ初のマーケティング組織を一人で立ち上げ、現在に至るグループのマーケティングメソッドをゼロから構築。2012年、国内大手ゲーム会社に移り、米国シリコンバレーで、海外モバイル事業の立ち上げ責任者として約3年間にわたり活動。その後2015年から5年半にわたり、グローバルのマーケティング部門責任者として、日本発のデジタル商品の世界展開に向けたマーケティングを牽引。同期間に50年以上の歴史を誇る同社の歴代最高益を複数回実現し、累計DL数7億回を超えるモバイルタイトルの創出など、マーケティングを通じた収益性改善に大きく貢献。
2020年からは、医療福祉系人材紹介の最大手企業である、株式会社トライトのCMOとして、無名ながら国内有数のデジタルマーケティング予算を持つマーケティング組織の構築・改革に取り組み、同社のIPOおよび広告宣伝費比率の大幅な改善を実現。
現在は、2024年に設立した、株式会社データドリブン・コンサルティングで、東証プライム上場企業からスタートアップ企業まで幅広くマーケティングおよび経営戦略のコンサルティングを行う。

◆書籍概要

出版社 ‏ : ‎ 日本実業出版社
発売日 ‏ : ‎ 2026年6月19日
定価 ‏ : ‎ 2,750円
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4534062772

書店リンク:Amazon楽天ブックス

綿密な計画ほど、なぜ改善の精度を下げるのか?

 計画を緻密に立てても、改善は思い通りに進まない。

 こういわれて、すんなり同意する人は少ないと思います。しかし、デジタルマーケティングで、成果が出せていない多くの組織が見落としているポイントです。事前にしっかり準備をして、改善活動を丁寧に行う。なぜ、それが改善の障害となるのでしょうか?

なぜ、綿密な計画がPDCAの精度も落とすのか?

 PDCAを成功させるためのポイントは、「精度高く」と「高い回転速度」の2つを両立させることです。綿密な計画がPDCAの改善活動の障害になる理由の一つ目は、Pに時間をかけると、PDCA全体の回転速度が落ちるからです。この点については、詳しい説明は不要でしょう。4つあるプロセスの一つに時間をかければ、プロセス全体の進捗速度は遅くなるからです。

 一方で、精度を上げることの障害になる点については、すんなり腹落ちしないかもしれません。一般に、物事を確度高く進めるために、事前に入念な準備をすることが悪いとは思いません。しかし、デジタルマーケティングのPDCAにおいては、多くの場合Pに時間をかけすぎることは、改善の精度を上げることの障害となります

 そもそも、PDCAの精度を上げるために必要なのは、P・D・C・Aそれぞれのプロセスの精度を上げることです。綿密な計画を立てることは「P」の精度を上げることは間違いありません。ここで問題なのは、Pの精度をあげることが、D・C・Aそれぞれのプロセスの精度を上げるかどうかです。

 DCA型組織の改善活動において、D・C・Aの精度は、その回転により向上します。Dの結果を、Cで検証し、Aで改善プランを考える。Aで考えた改善プランを2回目のDで試して2周目が始まる。2周目以降のDの精度を上げるカギは、前の周回におけるCとAの精度です。つまり、DCA型のプロセスにおいて、PDCAの精度を上げる要因は、DCAの回数を増やすことなのです。

 Pの精度がPDCAの精度を上げるのは、PDCAが1回転しかしない場合です。DCAを行っても、次のアクションをすぐに行わない場合には、Pに時間をかけ、入念な準備をして、Dの確度を高めることは有効です。しかし、DCA型組織は、DCAを高速で回転させることを想定しています。この場合、DCA自体の精度を高めるのは、Pではなく、DCAそのものなのです。

計画とは、やってみればわかることを予測すること

 これも、三木谷さんの受け売りですが、楽天では「走りながら考えろ」とよく言われました。これは、まさに、デジタルビジネスの世界では、P<DCAが成功の基本原則であることの言い換えです。

 私は、計画とは、「やってみればわかることを、不十分な情報をもとに予測すること」であると考えています。ビジネスには不確実性はつきものです。どんなに優秀な人でも、あらゆる状況を想定して、完璧な計画を作ることはできません。ただ、伝統的マーケティング的環境では、DCAの精度と回転速度を上げることが難しく、P→Dの精度を上げる必要がありました。このため、マーケティング理論には、Pの精度を上げることが求められてきました。

 しかし、マーケティングのデジタル化、特にC(検証)の精度向上により、マーケティングのフォーカスはDCAへと移行しました。PDCAによる改善の「質」と「量」はDCAの回転速度に依存しているのです。

Pとは仮説を立てること

では、Pには何が求められるのか。DCA型のモデルで重要なのは、「綿密な計画」ではなく、実行・検証・改善のための出発点となる「仮説」を立てることです。「やってみればわかることを、不十分な情報をもとに予測すること」に膨大な時間をかけることではないのです。

DCA型組織に必要なのは、綿密な計画をその通りに実現する力ではありません。仮説を素早く市場にぶつけ、結果に応じて柔軟に変える力です。多様化する顧客志向を完全に理解し、完璧な計画を作ることなどできません。それよりも、DCAをしながら顧客と対話を続け、走りながら顧客理解を深める。そして、最初の仮説に間違いがあれば、柔軟に変更する。計画・戦略とは、常に修正し続けるものであるべきなのです。走りながら考える姿勢こそが、圧倒的な改善力で、競争優位を作る武器になるのです。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
  • 書店リンク :Amazon楽天ブックス

あなたの数値目標は、改善を止めていないか?

数値目標を厳しく管理しても、改善は加速しない。

 組織の改善スピードに課題を感じている多くの経営者が抱える悩みです。目標を明確にするために、数値目標を設定した。管理が緩くならないように、数字は日次・週次で細かくチェックしている。数値が未達な場合は、メンバーに改善プランを検討させ、進捗も管理している。それでも改善は進まない。

数値目標管理の弊害

 近年、多くの組織で、部署パフォーマンスや人事評価の基準を明確化するために、数値目標を取り入れることが増えています。基準があいまいになりがちな「プロセス評価」「スキル評価」よりも、結果が自動的に出るため、納得感を得やすいことも人気の要因です。

 私も、25年以上、部下のマネジメントをしてきた経験から、数値評価、結果責任重視の利便性、重要性は理解しています。しかし、DCA型組織の活動を最適化するために、過度に数値評価、結果重視に偏重したマネジメントは、弊害の方が大きいと私は考えています。その理由は、結果重視に偏重した組織では、「失敗」が許容されにくくなるからです。

 DCA型組織の成功にとって、「失敗」は不可欠な要素です。「失敗」は、一般的には否定的な意味で捉えられます。前述の数値管理を行っているマネジメント手法において、高く評価されるのは、日次、週次の数値目標を着実にクリアし続ける社員です。途中のマイルストーンの目標値を外すことは、「失敗」を意味し、「改善プラン」の説明を求められます。つまり、「失敗」をした人は、課題がある社員だと認識されてしまいます。

 失敗は悪。失敗した社員には改善を求める。一方、失敗しない人には何も言わない。数値管理・結果重視の組織によくみられる考え方です。しかし、このような姿勢でマネジメントをしている組織では、DCAは活性化しません。なぜ、PDCAにおいて、失敗が重要なのでしょうか?

チャレンジがなければ改善は生まれない

 PDCAにおいて失敗が重要な理由は、失敗が「チャレンジ」の結果であるからです。チャレンジとは、何らかの仮説や改善プラン対して行うDにあたります。そもそも、DCAで重要なのは、完璧に予想することができない前提で、DCAを繰り返しながら、顧客理解を深めることです。そして、「完璧に予想できない」のであれば、Dは成功が保証されたものではありません。一定のリスクをともないます。そもそも、最初から正解が分かっているものは、改善活動ではありません。それを行っていないのは、単なる怠慢です。改善活動とは、まだ見ぬ領域へのチャレンジであるべきです。結果重視の組織と、失敗奨励型の組織を比較すると、その差は明確です。

 2つのサイクルにおいて、失敗の後の2項目に注目してください。結果責任重視の組織では、失敗に対して「責任追及」をします。失敗は「悪」だからです。どうすれば、その失敗の再発を防止できるのかを説明させます。このような追求を受けた社員にとって、最も簡単な対応は、すでに分かっている失敗しない方法を参考にすることです。つまり前例踏襲です。

 一方、失敗奨励の組織では、失敗とは次の改善活動の検証材料と位置付けられます。チャレンジが失敗か、成功かが重要なのではなく、その結果がなぜそのようになったのかを理解することが重要です。それを理解することで、成功の再現性を高めたり、失敗を糧にした次のチャレンジのアイディアの検討が可能になります。

 デジタルマーケティングのPDCAにおいて「前例踏襲」は最も排除すべき考え方です。組織が「前例踏襲」を善と考え始めると、改善活動は必ず停滞します。

失敗を奨励できる組織カルチャー

 「失敗は成功のもと」という諺がある通り、失敗を糧にして改善を重ねることの重要性は、昔から理解されています。しかし、DCA型組織において重要なのは、失敗を「奨励」するレベルにまで組織にその重要性を浸透させることです。PDCAの精度と回転速度が高い組織ほど、他社が経験したことのない未知の課題に直面します。そもそも、他社が経験した課題を前例踏襲でトレースしているような組織が業界のトップに立ち、そのPDCA活動で競争優位を築くことなどできるはずがありません。前例がない領域を走ることが、トップランナーに課せられた環境です。

 このような状況で、失敗を恐れ、チャレンジをやめてしまったら、改善が止まることは容易に想像がつきます。

 人間だれしも失敗はしたくないものです。出来れば、失敗せずに、順調に進めたいと思います。しかし、それでは改善は止まってしまいます。そのような事態を避けるために必要なのが、「失敗の許容」ではなく「失敗の奨励」なのです。よいチャレンジは、称賛の対象にするくらいの組織風土が必要です。失敗を恐れて何もしないよりは、失敗覚悟でよいチャレンジをすることを強く求める。そのような組織カルチャーをどこまで徹底して作り切れるか。それが、DCA型組織構築にとって重要なポイントの一つです。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
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AI時代に差がつくのは「戦略」ではなく「DCA」である

デジタルマーケターにとって、AIは今に始まった話ではありません。

 2022年11月のChat GPTの登場以降、AIが急速に人々の生活に浸透しています。ビジネスにおいても、それをいかに活用するかが重要なトピックスになっています。

 ただ、デジタルマーケティングを長年している身からすると、AIと仕事をすることは、新しい経験では全くありません。程度の差はあれ、デジタルマーケティングとAIの付き合いは既に20年以上の歴史があるからです。このため、AIを仕事でいかに活用するかを考えるヒントは、デジタルマーケティングの成功法則がそのまま活用できると言えます。AIを使って、いかに改善を続けるか、競合と差をつけるかを、デジタルマーケターは20年以上考え続けてきたからです。

AIによる効率化とコモディティ化

 AIがビジネスに浸透することで起こる問題で、最初に思いつくことは、「効率化」と「コモディティ化」です。まず、分かりやすいのは効率化です。この点は生成AIをユーザーとして使ったことがある人であれば直観的に理解できると思います。これまで何時間もかけて行ってきたことが、数十秒で終わってしまいます。私が一番それを感じるのが、言語の翻訳です。

 効率化は短期的には、仕事が楽になり、メリットと捉えられます。ただ、中長期的に見れば、同じことを行うために必要なリソースが大幅に削減できることを意味します。経営者の立場から言えば、コストが削減出来てメリットになりますが、労働者にとっては、仕事がなくなるという意味でデメリットです。ただ、AIが出来てしまった以上、効率化のメリットを経営者が享受することは避けられません。

 労働者としての防衛策としては、その職種におけるハイスペック人材になるしかありません。例えば、マーケティング業務の7割がAI化されるのであれば、マーケターとして働き続けるには上位30%の人材に自分を鍛えるしかありません。(ちなみに、本書の内容を本気で5年程度実践すれば、マーケティングでいえば上位5%位になれるはずです)。

 一方で、イメージしにくいのは「コモディティ化」です。なぜAIを使うとコモディティ化が起こるのかと言えば、AIとは本質的にデータドリブンだからです。データドリブンが意味するのは、AIに似た質問をすれは、似たような答えが返ってくるということです。つまり、戦略や施策についての同じ質問をAIにしたら、誰がやっても同じ答えが返ってくるのです。戦略とは、他者と違うことを行い、差別化することです。一方、同じ産業に属する企業が抱える課題というのは、大抵似たり寄ったりです。似たり寄ったりの課題解決をAIに聞けば、ほぼ同じような解決策を論理的に回答してくれるはずです。つまり、AIを「普通に」使うと、各社の戦略や施策は似たものになってしまうのです。

AI活用で差を生むもの

 では、AIから他社と異なる戦略的な回答を得るためにはどうすればよいのか?答えは2つです。「同じ質問をしないこと」と「問題を解くためのデータに差をつけること」の2つです。「同じ質問をしないこと」とは、誰でも思いつくような質問ではなく、より具体的で、誰も考えつかないような深い課題まで突き詰めて考えて質問をすることです。「データに差をつける」とは、質問を解くためのデータ(条件)をユニークにすることです。同じ質問でも、それを解くための条件を変化させれば得られる答えは変わるからです。

なぜDCAがAI差別化の源泉なのか?

 次の課題は、ユニークな質問とユニークなデータをいかにして手にするかです。実は、その答えは既に提示しています。PDCAの精度と回転速度を競合よりも向上させることです。正しいPDCAは、DCAを高速で回転させます。DCAの回転で行われることは、Aにおいて特定の条件における「課題=質問」を考える。Dでそれを実行する。Cで「検証データ」を得ることです。つまり、DCAの精度と回転速度が高いことは、そのまま、生み出されるユニークな質問とデータが競合よりも多く得られるということです。優れたデジタルマーケティングのマーケターは、メディアに組み込まれたAIにいかにすぐれた機械学習を行わせるかを考え続けています。どのようなデータを蓄積し、どのような問いを立て、どう実行するか。その結果として、独自の条件設定における検証データを獲得するか。その連続の中で、競合よりも優れたパフォーマンスを得る。PDCAこそ、AIを使って、独自の戦略や施策を考え、実行できるようになるためのカギなのです。

 本書の目的は、優れたマーケティング組織を構築することです。ただ、本書で扱う多くの考え方は、「マーケティング」を他の職種に置き換えても成立します。そして、そのアイディアは、AI時代にマネジメントが実践すべき課題とその解決策になるはずです。なぜなら、ここで取り上げる手法は、私が25年にわたってデジタルマーケティングを通じてAIと格闘し続けてきた成功ロジックの結晶だからです。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
  • 書店リンク :Amazon楽天ブックス

書籍出版のお知らせ

データドリブン・コンサルティング代表を務める堀内公博初の著書『なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント』(日本実業出版社)が、2026年6月19日に発売が決定しました。

  • タイトル :『なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント』
  • 著者名 :堀内公博
  • 出版社 :日本実業出版社
  • 書店リンク :Amazon楽天ブックス

 本著は、堀内の25年にわたるデジタルマーケティング、デジタルビジネスの最前線で養った、「実行力」がある組織を作るための原理原則を、専門的な事前知識がなくても理解できるよう、分かりやすく解説したものです。

  • 戦略は正しいのに、成果があがらない
  • 組織の実行力を上げる方法が分からない
  • マーケティングの教科書を読んでも、デジタルマーケティングの現場で役立たない

そんな課題を持つ経営者、管理職の皆さんに、必ず役に立つ内容になっております。すでに予約も始まっておりますので、是非お買い求めください。

出版社による書籍紹介

戦略(P)」よりも「実行力(DCA)」を強化せよ

戦略にリソースを投資しているのに成果が出ない……。その原因は「P(戦略)」ではなく「DCA(実行力)」の精度と速度にあった。基本中の基本であるはずのPDCAを効果的に回転させられない企業の共通項を指摘したうえで、どのようにすれば精度高く、高速に回転させられるかを徹底解説。

楽天の超急成長の礎を築いたマーケター初の著書

著者は、楽天が当時社員20人ぐらいだった黎明期に参画し、超急成長の礎を築いたマーケター。約25年での経験をもとに、精度高く、高速でPDCAを回転させる「やり抜く組織」の原理原則を初公開。戦略立案からKPI設定、人材育成まで、成果を出し続けるデジタルマーケティング・マネジメントの本質を解き明かす。

なぜ日本にはプロのマーケティング組織がほとんどないのか?

 日本企業において、マーケターの地位は低い。

 25年以上マーケターとして日本と米国で働いてきて私が最も残念に思っている事実です。多くの日本企業は、マーケティングを重視してきませんでした。あまり多く語られることはありませんが、実はこのマーケティング力の弱さが、バブル崩壊以降日本企業がグローバルで競争力を失った要因だと私は考えています。

マーケティングが不要だった日本企業

 日本でマーケティングが重視されてこなかった理由は、日本企業が得意としてきたビジネスモデルに理由があります。新しい商品・サービスを企業が市場に投入する際の考え方には、大きく分けて2つの考え方があります。一つが「プロダクトアウト」、もうひとつが「マーケットイン」です。プロダクトアウトとは、企業が良いと思う商品を開発し、それを市場に投入する手法です。何を作るかは、企業発のアイディアや、技術をベースに決定します。一方、マーケットインとは、市場調査等を基に、消費者等の顧客が求めるものを把握し、その内容に沿った商品を開発します。現実には両者は混在します。しかし、多くの企業にはどちらかの傾向が強く表れます。

 日本企業が、世界第2の経済大国になるまでに成長できた主要因は、プロダクトアウト型のビジネスモデルで高い競争力も持っていたからです。品質の良いものを、安く、大量に作って、グローバルで大量に売る。自動車にしても、家電にしても、日本が強い競争力を持っていた産業は、ほぼプロダクトアウト型のビジネスモデルでした。

 そのこと自体は、全く悪いことではありません。ただ、マーケティングという文脈で考えると、話は違ってきます。マーケットイン型のビジネスモデルにおいて、新商品開発を主導するのはマーケティングです。なぜなら、新商品のアイディアの起点が「市場調査」だからです。トイレタリー産業のブランドマネージャーが代表例ですが、マーケットイン型のビジネスにおいては、マーケターの市場調査を基に企業は、どのような商品を作るかを決定します。事業がマーケティング・ドリブンで推進されていくのです。

プロダクトアウトの成功体験

 一方、プロダクトアウト型で商品開発を主導するのは、技術部門や商品開発部門です。開発した技術が新たにどのように商品を改善できるか。省エネ化、小型化、低価格化などを、新しい技術で実現する。そのような動機で新商品がつくられます。このプロセスにおけるマーケティングの役割は、商品発売直前から始まる広告宣伝です。新商品開発プロセスの、最後の出口まで登場する場面がほぼありません。

 プロダクトアウト型が強い日本では、マーケティングは、広告宣伝を担う部門だとみなされてきました。マーケティング部門を日本語で「宣伝部門」と訳すのがその象徴です。マーケティングは、「最後に宣伝する部門」として扱われてきました。。商品が売れるかどうかの成否のほとんどは、宣伝活動以前の商品開発プロセスに依存しています。そこにほとんど関わらない宣伝部門は、会社の業績に大きく寄与する部門とみなされてこなかったのです。このように考えれば、日本においてマーケティングの地位が低いことは必然と言えます。

なぜマーケットインに転換できなかったのか?

 しかし、問題は日本経済がプロダクトアウト型で成功しすぎてしまったことで、高品質・低価格という強みを失ったことです。賃金の上昇と円高が進む中で、中国に高品質・低価格の地位を奪われてしまいました。この状況に直面したとき、日本企業はマーケットイン型のビジネスモデルに転換しなければなりませんでした。市場ニーズを正確に把握し、より付加価値の高いものを高単価で販売するモデルに転換しなければなりませんでした。しかし、現状をみると、自動車産業を除き、多くの試みは失敗したと言わざるを得ません。

 私は、その理由は2つあると考えています。ひとつめは、そもそも日本企業にマーケティングが出来る能力がなかったことです。それはプロダクトアウト型ビジネスモデルの説明で理由はご理解いただけると思います。ふたつめの理由は、マーケットインへの転換を迫られたタイミングで、マーケティングのデジタル化が起こったことです。

 マーケティングのデジタル化で起こったことは、マーケティングの圧倒的な複雑化・高度化です。日々進化する技術をキャッチアップしながら、PDCAを回し続ける。このプロセスを通じて深く市場を理解し、よりよいプロダクトに磨き上げていく。この絶え間ないDCAをマーケティング主導で回さなければなりません。しかし、日本企業においては、そのようなことができるプロのマーケターもいなければ、マーケティング主導で商品開発を主導するようなプロセスも、権限もない。一方、もともとマーケットイン型で事業を推進していた欧米企業は、プロのマーケターが、いち早くマーケティングのデジタル化に対応し、さらにマーケットイン能力を高める。この2つの理由が不幸にも組み合わさったことにより、日本企業はグローバルでの競争力を失ってしまったのです。

本当に顧客理解が出来ているのか?

 SNSやYouTube、Netflixなどの動画メディアが若年層の余暇時間の中心的存在に置き換わりました。その環境で、マーケティングは、有名タレントを使ったTVCMを大量投下すれば、認知度が上がり、商品が売れるという幸せな時代ではなくなりました。マーケターは、絶え間ないPDCAに基づき、多様化する消費者と、きめ細かにコミュニケーションしなければなりません。残念ながら、プロフェッショナルなトレーニングを受けていない人材が、広告代理店に丸投げして何とかなるような業務ではありません。そもそも、企業の趨勢を決定するような、ビジネスプロセスのナレッジを、自社に蓄積せずに、外部にアウトソースして、競争優位性を築くことができるハズなどあり得ません。

 日本企業に必要なのは、プロフェッショナルなスキルを持つマーケターで構成された、プロのマーケティング組織です。彼らの戦略的、継続的な活動を通じた深い顧客理解こそが、事業を成長させる源泉です。顧客と向き合い続ける“組織”を持たない企業は、マーケットイン型ビジネスで、継続的な成功を得ることはできないのです。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
  • 書店リンク :Amazon楽天ブックス

あなたは本当に「データドリブン」と言えるのか?

Data is GOD!

 ビジネスにとって何が大事かと問われれば、私は迷わずこの言葉を答えます。この言葉との出会いは、アジアのCMOが集まるイベントで、Netflixのアジアマーケティング責任者との会話でした。Netflixの社内で繰り返される言葉だそうです。この言葉を聞いた時、私のビジネスに対するスタンスをこれほどよく表す言葉はないと思いました。

 Data is GOD!とは、「データはあらゆるものより優先される」ことを意味します。特に、一神教中心の西欧社会での「GOD」の意味は絶大です。Data is GODの世界では、あらゆるものよりも、データが最も重要なのです。

デジタル化による「C」の革命

 これをビジネス用語でいうと「データドリブン」になります。データドリブンとは、「事業運営における意思決定をデータ分析結果に 基づいて行うこと」です。PDCAの精度を高めるうえで最も重要なのは、データドリブンであることです。特に、PDCAでデータが重要になるのはC(検証)です。Dの結果得られる顧客行動データを分析し、改善策を考える。その徹底により、PDCAの精度は確実に上がっていきます。

 そもそも、デジタルビジネスの世界で、P<DCAという逆転現象が起きた理由は、Cの重要度が増したことが背景にあります。それは、伝統的マーケティングとデジタルマーケティングを比較してみるとよくわかります。

 伝統的マーケティングの代表的手法のTVCMとデジタル広告を比べてみましょう。Cの観点から2つの手法を比較すると大きな違いがあることが分かります。TVCMの最大の問題点は、何億円も投資して実施したTVCMを実際に誰が何回見たのかを広告主が把握することができないことです。TVの前で誰が見ていたかを知るすべがないため、TVCMの効果検証(C)は、アンケート型のリサーチに頼ることになります。リサーチ時にCM視聴経験や、商品購入意向を質問し、CMを見た記憶がある人とない人で商品購入意向の差分を図り、広告の効果を可視化します。

 一方、デジタル広告は世界が全く異なります。ブラウザやスマートフォン端末単位で、誰が広告をみて、そのうち何人が自社のサイトを訪れ、どのページをみて、商品を購入したかどうかをトラッキングできます。しかもほぼリアルタイムで把握可能です。

 このCで得られるデータ精度の向上は、デジタルマーケティングにおけるCの重要性を伝統的マーケティングとは比較にならないほど上げました。これだけ充実したデータが得られるのであれば、PDCAによる改善活動は、データドリブンで行うのが当然です。

なぜデータが「神」になれないのか?

ここまで、データドリブンの重要性とデジタルマーケティングによる環境変化の話をしてきました。おそらくここまで読みすすんだ多くの方が、ビジネスはデータドリブンであるべきだと考えていると思います。

 ここで、疑問が湧くのは、ではなぜ「データドリブン」というビジネス用語が存在するのかです。ここまでの議論でデータドリブンに同意してくれた読者の方は、全員が明日から実践するはずです。しかし、もしそうであれば、わざわざ「データドリブン」という言葉など生まれるはずがありません。そう考えると、理由は一つしかありません。口では「データは重要」と言いながら、実際にはデータドリブンになれないからです。

 ここではデータドリブンになれないビジネス意思決定を2パターンに分類して説明します。「意思決定者の意向優先パターン」と「関係者の意向優先パターン」です。前者の代表例は「社長が〇〇と言っている」、後者は「大口取引先のバイヤーが〇〇と言っている」です。要は、データ分析結果に基づく論理的な結論より、影響力の大きい誰かの一言が優先されてしまうのです。組織で働いたことがある人であれば、誰しも直面したことがあるはずです。

Data is GOD!の世界では、データはあらゆるものに優先されます。それは、CEOであろうと、取締役会であろうと、大口取引先であろうと例外ではありません。ただ、組織で仕事をすると、それを実践するのは、想像しているよりもはるかに困難です。だから、「データドリブン」という言葉が存在します。

データドリブンはトップダウン

 組織がデータドリブンであるために最も簡単な方法は、経営トップが徹底してデータドリブンであることです。自分の「勘」や「経験」に基づいた発言をしない。徹底的にデータドリブンに意思決定をする。そうすれば、配下の組織は必ずデータドリブンになります。なぜなら、部下はデータドリブンな提案をしないと合意を得られないからです。

 DCA型組織構築においてデータドリブンは、PDCAの精度と高速回転にならぶ成功の絶対条件です。ここで妥協しては、決して競合に勝てるDCA型組織にはなれません。

 マネジメントの立場の読者の方は、まず自分がデータドリブンを徹底できているかを自問してください。重要なのは「例外」をなくすことです。トップが例外を作ると、組織全体で例外が必ず横行します。

 マネジメントでない読者は、難しいかもしれませんが、自社がどうすればデータドリブンになるのか問題点を同じ志を持つ同僚と議論し、データドリブンな範囲を少しずつ広げていきましょう。

 データを「都合よく使う」組織は、データドリブンではありません。Data is GOD! これこそがデータドリブンなのです。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
  • 書店リンク :Amazon楽天ブックス

そのPDCAで、競争優位は作れるのか?

ほとんどの企業がPDCAを回しています。


しかし、それで競争優位を築けている企業は、ほとんどありません。PDCAで競争優位を作れる企業とそうでない企業の差はどこにあるのでしょうか?

PDCAをするだけでは差は生まれない

 PDCAを競争優位の源泉にまで高めるためには、精度と回転速度を極限まで高めることが必要です。ただ、ここで問題になるのは、PDCAの精度と回転速度を高める方法が明示されていないことです。このため、ほとんどの企業が、PDCAを、自己流で行っています。目の前の課題を上手くいくように仮説を立て、その仮説を実行する。結果を検証して、改善策を考える。しかし、その程度であれば、誰でもやっています。つまり、PDCAを実施すること自体が、競争優位を築くための要因ではありません

 多くのビジネスパーソンの間違いは、PDCAの精度を高めるために、仮説=戦略で差をつけようとすることです。特に、マーケティングは、その側面が強い分野です。その理由は、マーケティングの教育の影響が大きいと考えています。

戦略にフォーカスする伝統的マーケティング理論

 マーケティングを体系的に学ぼうとする人の多くが手に取るのが、フィリップ・コトラーのマーケティング・マネジメントという教科書です。おそらく、世界中のほとんどのMBAのマーケティングの授業で、教科書として使われています。それほど、コトラーのまとめたマーケティング理論の体系は影響力のあるものです。ここからは、このコトラーのマーケティング理論を「伝統的マーケティング」と呼ぶことにします。

 伝統的マーケティングが、これほど影響力を持っているのは、それが有用だったからです。現実のビジネスの現場でマーケティングをする際のガイドとして、素晴らしく便利なフレームワークでした。

 では、伝統的マーケティングはその理論体系の中で何を議論しているのか。それは、いかに優れた「戦略」を構築するかです。代表的なのは、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)や4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)などです。いずれも伝統的マーケティングの中核的なアイディアですが、それ以外のアイディアもほとんどはマーケティング戦略を精度高く構築するかを議論しています。

 では、伝統的マーケティングの理論は、デジタル化されたマーケティングの世界で有用と言えるのか。その答えは、「役立つ」時もあるという感じです。私は、これからデジタルマーケティングを学び始める人に、コトラーの書籍をお勧めしません。なぜなら、実態と大きくかけ離れているからです。その理由は、ビジネスやマーケティングのデジタル化により、マーケティングを行う環境が劇的に変化したことが背景にあります。

 そもそも、伝統的マーケティングの理論が想定していた主な産業は、トイレタリー商品をはじめとした消費者向けの消費財です。消費財ビジネスで、ヒット商品を作る際に重要なのは、新商品発売時にどれだけ小売店の棚スペースを確保するかです。どんなに素晴らしい商品でも消費者の目に触れる機会がなければ売れないからです。しかし、小売店のバイヤーの立場から見れば、売上実績がある商品を下げ、新商品に棚を割り振ることはリスクです。そんな時、出てくる話が、この商品はどのくらい広告宣伝するのかという話です。自信があるのなら、メーカーもリスクを取って大規模な販売促進支援をしろというロジックです。

 ただ、これはメーカーのマーケティング担当からすると困った話です。新商品には当然実績がありません。つまり、新発売時の1発目のマーケティングというのは、PDCAの1回転目のDにリスクを取って大規模な投資をすることです。

 では、一回目のDの成功確度を上げるためには何をすべきかといえば、それはPの精度を上げることです。これが、伝統的マーケティングがP=戦略構築にフォーカスを絞ってきた理由です。

なぜ、伝統的マーケティングはデジタルで使えないのか?

 しかし、ビジネスのデジタル化は、環境を大きく変化させました。小売店型の商品販売とECを比べると分かりやすいでしょう。ECには、物理的な棚スペースという概念はありません。スペースは理論上無限大です。このため、新商品発売時に、無理に大規模なマーケティング投資をする必要はありません。デジタルビジネスの成功法則は、「小さく産んで、大きく育てる」です。それは、GAFAMと呼ばれるアメリカの巨大IT企業が全てスタートアップから始まったことが証明しています。初期の商品・サービスのアイディアを形にして、まず市場に出してみる。実際の市場での消費者の反応をみて、どんどん改善活動を行い、市場に求められる商品・サービスに磨き上げていく。これが、デジタル時代のビジネスの成功要因です。デジタルビジネスにおいて、P(戦略)とは、最初のアイディアで十分なのです。重要なのは、市場向けにD(実行)を行い、反応をC(検証)し、A(改善)する。つまり、成功のカギはPではなく、DCAにあります。実際には、PよりもDCAに費やされる時間の方が圧倒的に長い。それがデジタルビジネスです。

 そう考えると、デジタルビジネス、デジタルマーケティングにおいて、伝統的マーケティングが有用でない理由は明白です。ほとんどの人はPではなく、DCAをしているのに、Pの正しいやり方を教えられても、適用する場面がほとんどないのです。私が「役立つときもある」と表現したのは、Pのフェーズにおいては有用だが、それ以外には使えないからです。

競争優位はDCAの差で決まる

 では、デジタルマーケティングの研究や書籍や記事が、DCAのやり方を教えてくれるのかと言えば、全くそうではありません。デジタル広告、インフルエンサーマーケティング、SNS活用などなど、流行りの手法のノウハウを説明するものばかりです。分野別のDの解説に留まっています。

 DCAの成功のカギは「精度の向上」と「回転速度の高速化」を極限まで高めることです。その実現には、戦略、オペレーション、データ基盤、組織、人材など、企業全体での組織力の向上が不可欠です。DCAの繰り返しの中で、顧客の声を聞き、改善し、またフィードバックを検証する。この回数を競合よりもどれだけ多くできるかが、競争優位の源泉なのです。

 PDCAとは、単なる掛け声ではありません。PDCAはすればよいのでもありません。重要なのは「精度」と「回転速度」です。競合が月1回のPDCAであれば、週1回まわせる組織は4倍の速度で改善できます。それこそが、良い商品、良いサービスを作る最も確実な方法です。PDCAの「精度」と「回転速度」を低下させる要因は徹底的に排除しなければなりません。それがDCA型組織です。

 組織の力を最大限引き出し、実行力を極限まで上げる。そんな「本物」のPDCAを実現する。あなたの組織で行われているPDCAは胸を張ってそのレベルに到達していると言えるでしょうか?

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
  • 著者 :堀内 公博
  • 出版社 :日本実業出版社
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戦略は正しいのに、なぜ成果が実現しないのか?

※2026年6月19日に初の著書「なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?」(日本実業出版社)が発売されます。本書を執筆するために考えた、問題意識やその解決策について、10回程度の記事で、簡単にご紹介します。

 正しい戦略を立てているのに、なぜ成果が出ないのか?

多くの経営者が、この課題に直面しています。そして、その理由を実行力に求める。誰もが一度はそう考えます。しかし、実行力があがらない。オペレーション、組織、人材・・・と原因は様々考えられます。ただ、問題がありすぎてどこから手を付けてよいのかわからない。各機能に対する専門書やガイドはあふれています。しかし、実務で活用できる総合的なフレームワークは殆ど見かけません。

PDCAを極限まで高める組織づくり

私は、これまで25年以上に渡り、事業会社でマーケティングの責任者として、組織を作ったり、再構築したりしてきました。その経験を通じて確信していることは、企業がマーケティングで競争優位性を築くためには、単に最先端のマーケティングの知識を学び、実践するだけではダメだということです。

正しい戦略を作り、

それを落とし込むオペレーションを作る。

意思決定の基準を明確にする。

実行する組織と人材を整備する。

これらのどの一つの要素が欠けても、その業界でTopと胸を張れるマーケティング組織は出来ません。

 組織づくりの過程で、「実行力」を体系化するための一つの核として浮かび上がってきたのが「PDCA」です。多くのビジネスパーソンからすれば、PDCAなどあまりにありふれたビジネス用語です。目新しさはありません。しかし、私はビジネスパーソンとしての原点である楽天で、三木谷さんから「仮説→実行→検証→仕組化(=PDCA)」という概念・手法を叩きこまれました。25年間、自分のビジネス人生は、ひたすらにPDCAを繰り返してきた歴史です。PDCAこそが、組織の実行力の核となる概念であると確信しています。

徹底したDCAによる実行力の差別化

 では、実行力のある企業と、実行力のない企業をPDCAの観点で比較するとどこに違いがあるのか? 戦略が実現できず、成果があがらない企業のPDCAはどこに問題があるのか? 答えは、Pではなく、DCAにあるというのが本書の結論です。

 実行力に問題を抱える組織は、ほぼ例外なくDCAに問題を抱えています。P(戦略)には時間とコストをかけるのに、DCA(実行)は現場任せ。上手くいかなければ、担当者が悪い、部署の能力が足りないと人や組織を変える。それでもうまくいかなければ、戦略が悪かったと作り直す。戦略をひたすら見直し続ける無限ループには嵌っています。

DCAが弱い組織では、いくら戦略を作り変えても、その戦略は実現しません。正しい戦略を実現するためには、戦略を作る数倍、数十倍の力で、実行力を強化しなければなりません。

DCAに強い組織を作る方法は、とてもシンプルです。「PDCAを精度高く、高速回転させる」ことが、全てです。ポイントは「精度高く」と「高速回転」です。

 ただ、これまで多くの企業を見てきましたが、私が納得するレベルで「精度高く」と「高速回転」を実現できている組織は殆どありません。それは、企業の有名/無名、規模の大小など全く関係ありません。私の専門であるマーケティングに関して言えば、残念ながら、PDCAの精度と回転速度が実現している組織は、自分がマネジメントしている会社以外、数えるほどしか見たことがありません。

DCA型マーケティング組織

 理由は、その実現が、一朝一夕にできるものではないからです。戦略・オペレーション・データ基盤・組織、人材育成と組織を構築するあらゆる要素を、一貫性をもって、徹底的に磨き上げなければならないからです。

本書では、実行力が強い組織をDCA型組織とよび、その構築方法を、体系的に整理しました。題材としては、私の専門であるマーケティング、とくに、デジタル化されたマーケティングで説明します。しかし、DX化が進展するビジネス環境においては、マーケティングを、営業、人事、システム開発など、全く別のファンクションに置き換えても、多くの手法は転用可能なはずです。

  • 戦略を何度見直しても成果が出ない経営者
  • 現場の実行力に限界を感じているマーケティング責任者
  • デジタル時代の組織構築に悩む管理職

そのような方に読んでいただければ、必ずお役に立つ内容になっているのではと信じています。本Blogでは、内容の「さわり」を残り9回に分けて、ご紹介します。

  • タイトル :なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?
  • サブタイトル:事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント
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