部下に言ったことを覚えているか?

マネジメントに求められる一貫性

人と比べて自分が優れたマーケターである自信はあるが、一方で何か特別優れた能力があるとは思ったことはない。でも、お世辞かもしれないが、一緒に仕事を長くしたいろいろな方に一緒に仕事をして楽しいと言っていただけるし、勉強になるとお褒めいただくことが多い。

その方法論を纏めようとおもって、このように文章を書き始めると、一つ一つ言っていることは誰でも言ったことがあるような普通の事ばかりである。おそらく、このBlogのタイトルリストを読んでも、ごく普通の言葉が並んでいるだけで、面白そうな内容が書いてあるとは思わないであろう。まあ、その時点で読者数を増やそうというマーケター視点から言うと大いにセンスがないという気がするが。

では、他の人と私でどこに違いがあるのであろうか?私は実はひとつしかないのではないかと思っている。それは、「一貫性」である。要は言動に筋が一本通っているかいないか、一度決めた方針を貫き通すということなのではないかと思う。

普段から考えていない事柄にどうやって一貫性をもって意思決定するか?

ひとつの事業を経営しようと思うと、日々数えきれないほどの判断をしなければいけない。中にはとても重要な決断もあるかもしれないが、実は個々の意思決定というのは、他愛もないことも多く含まれたりする。意思決定を求められる立場にある人であればなんとなく同意してもらえるかもしれないが、実は意思決定を求められる事柄について、普段から全く考えていないようなことも結構多かったりする。私は特にいい加減なので酷いのかもしれないが。私の場合は自分の中のルールで、よほどのことがない限り、1時間なら1時間のミーティングで聞いて判断を求められたら、その1時間の間に理解して結論を出すことにしている。それはどういうことかというと、その事項について基本的にはその打ち合わせ中しか考えておらず、それ以外の時間はその人がやっていることには基本的に大きな関心を振り分けていない。つまり、はっきり言うと、部下のその人が普段行っていることを考えている時間は打ち合わせ時間以外にはほとんどないと言ってよい。しかも、自分で発した言葉を自分自身で全部覚えている自信も全くない。

そこで問題になるのが「一貫性」である。普段考えていないことについて、瞬時に判断を求められたときに、その時の思い付きや、感覚で返答していると、一つ一つのお題に対しては特に間違っていない判断であっても、ひとつのお題で答えた内容と、他のお題で答えた内容に齟齬が生まれたり、そのぞれのパーツのディレクションが微妙にずれたりして、組織全体で組み合わせると上手く整合性が取れなくなったりする。

報告スキルが低い部下に間違った反応をしないようにするためには

例えば、人材業界で、前月新規獲得ユーザーからの求人提案転換率の悪化から、求人提案数の目標が達成できなかったとする。今月の重点改善ポイントは求人提案転換率の改善をする事と担当者と目標をきめてプランを作ったとする。

何週間かして、担当者が今月も目標達成が厳しそうだと報告をしてきた。原因を聞くと前月よりも新規獲得CPAが上昇したためだという。

ここで、考えてみよう、ここで一番してはいけない発言は何だろう?私は、「何で新規獲得CPAが上がったのか?」と問い詰める事だと考える。なぜなら、今月の基本方針は求人提案転換率の回復であったのであるから、そこには多少の新規獲得CPAの上昇は想定していなければおかしいはずである。

この担当者のダメなところは、そもそも今月の改善ポイントは求人提案転換率なのだから、まずその報告をしていないことが明らかにおかしい。さらに、今月の求人提案数の目標未達見込みの理由が、①求人提案率は想定通り改善したが、新規登録CPAの悪化がそれ改善幅を上回ってしまったことが原因なのか、②求人提案率は改善せず新規登録CPAだけが悪化してしまったことが原因なのか、③求人提案率は改善し、新規登録CPAも若干悪化したがそもそも求人提案率の改善が想定より小さかったことが原因なのかの3パターンくらいは検討出来るが、そのどのパターンであるのかも説明できていない。一番最悪なのは②であるが、①、③は状況としてはそれほど悪くないのかもしれない。とくに③のケースなど、経験の少ない担当者であったりすると前月比の数字だけ見て新規獲得CPAが悪化していることが問題であると報告しているのかもしれない。

もしこの上司が私の例示した最悪の発言をしてしまうとすれば、大きな原因は、報告者が今月の求人転換率の改善という基本方針をきちんと説明せずに新規獲得CPAの悪化を問題点として報告したことに対して、上司がその基本方針をわすれて報告内容に反射的に反応してしまっていることである。そもそもは報告者の報告スキルの低さに原因があるのだが、実は業務の現場ではこのようなことは日常的によく起きることである。しかもよくある最悪な事態は、このようなスキル不足の担当者が、打ち合わせが終わった後に、まわりの同僚等に、自分の報告スキルに問題があることに気が付かずに、上司が基本方針を忘れていると陰で文句を言っていたりするのである。しかし、私の仕事のやり方は極端だとしても、多くの管理職、マネジメントは日々瞬時の判断を求められているので、じつはこのような状況は多かれ少なかれ発生すると考えておいた方がよい。

一貫性の高い部署を作り、部下の心理的安全性を確保する

このようなことが頻発すると、まず職場が部下にとって心理的な安心感がある場所ではなくなる。さらに最悪なことに、その上司の心無い一言のために、部下の仕事の仕方は状況対処的なものばかりになる。その結果、組織のメンバー個々の業務内容がバラバラになり、皆で上司に言われた通り一生懸命働いているはずなのに、組織全体として一向に成果が出ないということになる。その結果は、右肩下がりのモチベーションの低下である。

では、このような事態を防ぐためにはどのようにするべきなのだろうか?私の実践している方法は、「未来からの逆算」である。多くの会社では、中期経営計画などで、向こう3-5年くらいの事業計画はあると思う。私は、いつもその事業計画全体とマーケティングの数字を作りながら、大体この計画を実現するためには、ここから1年ごとにどの程度の数字の改善が必要で、それを実現するためにはこれとこれをすればたぶん実現するくらいの大きな絵図を作る。別に詳細なPPTの資料など必要ない。たぶん、年初か年度初めの時期に一回くらいはマーケティング部門の方針のような資料を作るであろう。そんな程度のものでよい。そして、その内容は当然自分で作るのであるから、自分の頭に叩き込まれているはずである。

それが出来ると、当然、今年は四半期ごとくらいで大雑把にこのくらいのことは出来ていないといけないだろうと自分の配下の部署の大きなディレクションも考えられるようになる。もちろん、そのような内容は、各部署のミドルマネジメントと目標設定面談などで確認、合意するであろう。

まず、このくらいの内容は、忘れず記憶していつでも取り出せるようにしておかなければならない。これも相変わらず凄く普通のことを言っているように思われるかもしれないが、周りの人を見ていると、計画とか目標を決めるときに作ることが目的化してしまい、作った後でその時の「作文内容」をすっかり忘れてしまっている人は結構多い。

このくらいまで出来れば、あとは基本的にはそれほど難しい話ではない。日々の打ち合わせの中で提案される内容や、報告での問題や成功事項に対して、この計画からの逆算のラインに乗っているかどうか、それを遅らせる要因になるのか、加速させうる要因になるのかを常に考え続ければ良いわけである。なぜなら、過去の似たようなシチュエーションにおいても、ディレクションに沿うものにはYesといい、ディレクションからずれたものにはNoと言っているはずだからである。

そうすれば、そもそもの判断に必ず筋が通るはずである。つまり、意思決定の「一貫性」が生まれる。

一貫性のまるマネジメントは部下の自走力を強化する

そして、この一貫性が部下に理解されると、さらに大きなメリットがある。部下が、そのディレクションに向かって、勝手に自走しだすのである。なぜなら、部門全体の方向性がクリアであれば、細かいディテールまで報告や確認をしなくても、部署内で問題になることがほぼないという安心感があるからである。

私は、例え自分の部下から細かい報告がなく、多少上手くいかなかったことがあっても、部下が論理だててディレクションにそってやった施策であれば、なぜ報告せずに勝手にやったのかとか、聞いていないと門前払いにするとかはしないようにしている。もちろん、決裁権限の範囲など、会社のルールは絶対に厳守することは条件であるが。

なぜなら、それをしてしまうと、部下が私の言ったことしかやらなくなってしまうので、私の考えていることしか前に進まなくなる。しかし、私自身は、前に申し上げたように部下が考えていること以上のことは基本的に考えていないため、部下が私が考えていないようなことを考え続けてくれないと、部署としての推進力が著しく落ちてしまうだ。

部署の責任者としての意思決定の一貫性は、部下の自発的な創意工夫や、狭く深く考えるモチベーションを促進するための最高のエンジンなのではないかと思う。

部下に上司の間違いを訂正できる環境を構築する

私は、この「一貫性」の堅持が自分の日々の仕事をする上でも最も重要なマネジメント上のポイントであると思っているが、その実行にあたって、「未来からの逆算」と同等レベルで重要だと思っていることがある。それは「部下に間違いを指摘してもらう」環境を作るということである。まあ、私自身はそう心がけているつもりだし、打ち合わせで「堀内さん前にそう言っていませんでしたよ」と言ってくれる部下がいるので、完ぺきではなくても、全く言えない環境にはなっていないとは思っているが、自分でも自信はない。でも、この上司にきちんと間違いを指摘できる環境を作れるかどうかが、自己の言動の一貫性を担保するために非常に重要だと思っている。なぜなら、これもよく部下に正直に言うが、日々多くの判断をしすぎて、自分で自分の発言を全部覚えられているわけではないからだ。昔のある出来ない上司が「自分は朝令暮改でいうことが変わるので、そういうもんだと思って諦めてください」と全員の前で宣言したどうしようもない人がいたが、こういう人のもとでは本当に安心して仕事ができないと心から思ったので、自分はそうならないように心がけているつもりだし、例え、以前の判断と異なる判断をするときには、非を認めたうえで、部下に謝罪をするようにいしている。当然、経営メンバーに名を連ねているからといって、何から何まで完璧に出来るわけでもないし、自分の理想通りに行動できるわけでもない。やはり、自分の間違えを部下から指摘してもらえる環境は私としては何とかして維持、改善していく努力をしたいと思っている。

そして、最後にこの一貫性を下支えする基盤となる前提がある。「Data is God!」の考え方である。これは前にも言ったが、このData is God!の最も重要な基本思想は、上司よりもDataの方が偉いということである。私の発言であれ、社長の発言であれ、データで証明出来ないのであれば、または、データで反論出来るのであれば、議論をしても全くリスクがないという絶対的なルールである。自分の意思決定を極力その時持つデータをもとに行っていれば、データ=状況が変わらない限り、発言がブレるリスクは低く抑えることが可能である。もちろん、データの解釈が変わるリスクもあるが、それが頻繁に発生するのであれば、その人はDataを読む力に問題があるのかもしれないので、今やっている仕事が向いているかどうか真剣に考えたほうが良いかもしれない。