グローバルへのマーケティング展開

日本でも海外でもマーケティングの基本は何も変わらない

グローバルマーケティングの展開と、グローバルに通用するマーケターをどのように育成するのかについて、考えるために必要なことを述べたいと思うが、以前議論してきたマーケターの育成と基本は変わらないので、もしまだ読んでいない方は、まずこちらを読んでいただきたい。

特に、パフォーマンス系のマーケティングについては、Globalのほとんどの国(おそらく、中国と韓国以外)はGoogleとMetaが中心的な媒体となるため、使用するマーケティングのツールの利用方法も媒体の特性もほぼ変わらない。その意味では、パフォーマンスマーケティングのスキルを日本でも、どこでもしっかりと身に着け、PDCAを精度高く回せるようにしていくということはGlobal共通のスキルになると考えて勉強してほしいと思う。ただ、Globalで活躍できるような人材になるため日本では必ずしも必須ではないが、海外ではほぼ必須になる条件は、自社運用できるようになっておくべきということだ。海外において日本の広告代理店ほどサービスがしっかりした代理店を見つけるのはハッキリ言って難しい。どの会社も自社運用が前提である。このため、いつでも自社運用できるように経験を積んでおくことは必要なスキルであると認識しておいて欲しい。

基本的には、海外でパフォーマンスマーケティングをやる時に唯一国内向けと異なるのがクリエイティブである。当然日本語のクリエイティブは日本でしかワークしないので、この点だけはローカライズする方法を検討しなければいけない。最近は生成AIの翻訳の精度も相当高くなっているので、もしかしたらそれで丸っと翻訳するみたいなことをしている会社もいっぱいありそうだが、真面目にやろうと思ったら、クラウドソーシングなどで翻訳対応できる体制を作っておいてもいいかもしれない。

実際、大手ゲーム会社時代は、パフォーマンスマーケティングの拠点は日本とLAの2拠点で回していた。日本のチームが原則日本、LAのチームが日本以外残りすべての国という感じであった。おそらくパフォーマンス系に関してはこれでも大きな支障はなかったと思っている。Globalで一番広く使える英語圏のマーケターを確保するということと、日本よりマーケティングの情報が早い米国に拠点がある方が、日本にも良い影響があると考えて、日米の2拠点体制としていたが、もし日本だけで人材を揃えられるのであれば、ぶっちゃけ、日本発でGlobalでやってしまうのでも実は何ら問題はないと思う。もし、なるべく早く海外進出したいという事であれば、国内のパフォーマンスマーケティングで自社運用できる体制を早く構築することをお勧めする。

日本からグローバルにマーケティングをする環境はそろっている

ゲームアプリというのは、完全にデジタルに閉じた世界なので、Global展開は商品をローカライズして、パフォーマンスマーケティングで集客するということが出来れば、実は結構簡単にGlobal展開が出来てしまう。新規顧客獲得のROIをポジティブに出来るようなメカニックが構築できているようなデジタル完結のビジネスであれば、個人的には最初からグローバル展開をパフォーマンスマーケティングOnlyでやってしまうというのは、全然ありな選択肢だと思っている。逆に言えば、そのくらいのスピード感でやってしまっても殆ど問題ないというのが、今のアプリ系のビジネスである。もちろん、厳密に言えば、マーケティングのクリエイティブなども、国ごとのカルチャーで好みが異なるとか、精度を上げようと思えば、現地化する方が理想であるが、そんなことをしているとGlobalの競争に負けてしまうので、まずは自分たちの商品、サービスがGlobalで勝者が決まっておらず、デジタル完結である程度ビジネス展開が出来るという事であれば、さっさとやってしまう方がいろいろ考えるよりも話が早いと思う。

ゲームを元々しないので、ゲーム業界を離れてしまうと業界のことには疎くなってしまうので、4年分くらい情報が古いかもしれないが、おそらくこの10年で最も成功したモバイルアプリゲーム企業であるSupercellなど、海外の企業が日本に進出するステップも、最初はデジタルのパフォーマンスマーケティングOnlyで一気にグローバル展開してしまった後で、例えば日本に人を張り付けて事業拡大しても収益の見込みが立ちそうということであれば日本支社を立ち上げて、マーケティングの権限を現地に移管していくみたいなやり方で精度を上げるようにしていた。私の場合は、US以外にそこまで投資できる国がいくつも現れるような真のGlobalタイトルを作り切れなかったので、そこまで出来たことがないが、海外のBest Practice的をみてもそれが正解のような気がする。

おそらく、本格的にマーケティングのグローバル展開で問題になるのは、マーケティングがパフォーマンスマーケティングだけでは限界値を迎えたときな気がする。その理由は、少し前までは、大規模なマーケティングを海外でやろうと思うと、どうしてもその国の文化が分からないとクリエイティブを作るのが難しいというの側面が非常に強かった。特にTVをメディアとして使う場合などは、投資規模も大きくなり、失敗したときのリスクも大きくなるので、純粋に怖いということと、ある程度現地のことが分かるメンバーがいないと成功確度が上がりにくいということがあったような気がする。

ただし、最近は、TVを使わなくてもYoutubeを中心にある程度Full Funnelのマーケティングがデジタルだけでできるようになってきたので、現状であれば、パフォーマンスに近い形で実施することができる環境になってきている気もする。

そのような場合は、海外の代理店やクリエイティブハウスを使って、クリエイティブワークの目利きが出来る体制が作られれば、初期はローカルスタッフがいなくても何とかなるのかもしれない。

クリエイティブを作る際の注意点についても、基本的には海外展開をするからといって、基本的な注意点は変わらない。クリエイティブワークの8割を左右するというロジックの部分は、基本的には万国共通でいけるはずである。文化圏別に違いが出るのは、最後の2割の表現の部分であるが、国別に大きな予算が使える相当大規模なプロダクトにならない限り、ある程度は万国共通に活用できるものを作るか、逆に個々のクリエイティブは低予算で、数を多めに作って当たるクリエイティブをAIに自動的に選定させるという割り切りでも良いのかもしれない。ユーザー視点で見ている感じだと、例えばAppleのTVCMのクリエイティブの多くはおそらく本社一括管理でグローバル統一クリエイティブをローカライズしているだけな気がする。おそらくローカルにアジャストするよりも、グローバルのブランドイメージの統一性の方を重視しているからであろう。LVMH系のハイエンドブランドのクリエイティブなども殆どの場合グローバルで表現などは統一されていて、ローカライズや簡単なアレンジがされているだけのように見える。

このように見てくると、GoogleとMetaがGlobalで成功してくれているおかげで、デジタルに特化してマーケティングをするという事であれば、実はある程度日本国内にいてもGlobalのマーケティングを実行することは、そこまでハードルは高くないし、そのハードルもドンドン下がってきているように感じる。本当にありがたいことである。

マーケティングチームには文化的多様性を!

ただし、Globalでマーケティングをしようと思ったときに、日本国内向けでやる時とひとつだけ大きく変えるべきポイントがあると思う。それは、チームに出来るだけ多様な人材が参加出来るような状況にしておきたいということだ。例えば、私が大手ゲーム会社で働いていた時の有名サッカータイトルのマーケティングチームは、日本は、日本人、イギリス人、フランス人、米国はアメリカ人とブラジル人、台湾人、ヨーロッパはデンマーク人とドイツ人、香港は香港人と15人前後のチームであったが、国籍は9か国に渡っていた。もちろん、どれだけ人数がいても、それぞれの人がそれぞれの国の代表ではないので、個人の意見に引っ張られるというリスクはあるが、やはり様々な視点から、議論をすることは非常に重要であると思っていいた。正直、日本人だけでやってしまった方が話が早いと思うこともあったが、この多様性を否定してしまうと、やはりGlobalでは上手くいかないのではないかと思っていた。日本でマーケティングを一元管理してしまうことの最大の問題点は、東京であってもこの多様性を出すのが結構厳しいのではないかという点である。もちろん日本にも多くの外国人の方が住んでいるので不可能ではないが、個人的な感覚として、日本にいる日本語を話せる人という特殊な母集団を前提として無理やり多様性を作ろうと思うと、なんとなく特殊なグループになってしまいそうな感じがしてしまう。もちろん人種差別をするつもりは全くないし、実際にやったことがないので、私の感覚が正しいのかどうか分からないが。

もう少しすると自動翻訳とかでどうにかなってしまうのかもしれないが、その意味では、Globalでマーケティングをするためには、英語である程度コミュニケーションが取れるようになっておくことは、当面の間は必要だと思う。日系の代理店の海外子会社の活用などもチャレンジしてみたりしたが(これはオフラインも、オンラインも含め)、やはり日本語でコミュニケーションすることが前提になってしまうと、出来ることと、一緒に仕事を出来る会社の選択肢が相当限定されてしまうし、正直、日本の広告代理店自体も日本からGlobalのマーケティングをコントロールするというファンクションを十分に構築できているという印象は少なくても2020年前後までは持てなかった。(その後変わっていたらごめんなさい)。

少し、マーケティングの様々な側面を一気に見てしまったので、余り纏まりのない文章になってしまった気がするが、凄くわかりやすく言うと、グローバルでマーケティングをするからといって、一人一人のマーケターが身につけなければいけないスキルというのは殆ど変わらない。巨大IT企業のおかげで、マーケティングの環境はグローバルで統一される方向に間違いなく動いている。

英語でのコミュニケーション力というハードルはあるかもしれないが、そこだけ何とかクリアしてしまえば、どちらかというとあとは勇気と決断の問題な気がする。

もちろん、モバイルゲームという身軽さが極端なケースを例に話をしたため、これを読んでいる殆どの方は、そんな簡単じゃないよと仰ると思う。それはその通りだと思う。但し、日本企業にはそもそもGlobalでマーケティングをまともにした人が少なすぎる気がするので、その意味ではそういう人材プールを作るという先行投資の意味でも、出来るだけリスク少なく、Global展開する方法を考えて、小さく、早く、意図思って失敗するPDCAを回し始めることを始めるべきなのではないかと思っている。

と書きながら、この3年半相当ドメスティックに戻ってしまっていたので、自分でも何かチャレンジしなければいけないと思う今日この頃である。